シカゴに戻る;民間でがん治療を動かそう

2017年10月02日 15:30

ハノイ・東京(正確には横浜)11日間の出張を終えて、ようやくシカゴに戻ってきた。帰国日も朝から会合、そして、1時間の講演会をこなし、夕方の成田―シカゴ便で午後3時頃にオヘア空港に戻ってきた。

土曜日の夜に、友人であるJun Wang氏(前Beijing Genome Institute社長・現iCarbonX社長)が突然メールを送ってた。「今、東京に着いた。明日会えないか?」「え~~~。明日。それは、あんまりやないか!11時から講演会やで。」と心の中で叫びながらもOKして、朝早くから、彼のホテルを訪問してきた。中国の大型休日なので家族と一緒に来日しているようだ。いろいろと共同研究を進めるための詳細を詰める必要もあったので、有意義な時間を過ごした。

そして、11時からは、板橋中央病院グループの主宰する講演会だった。有楽町国際フォーラムのAホールに数千人の聴衆がいた。一曲、歌を披露したい気持ちになったが、音痴な歌声に聴衆が一気に席を立ってしまうと困るので、そこは自制した。1時間、できる限りわかりやすく話をしたつもりだが、どこまでわかってもらえたか、自信はない。しかし、医学・医療の進歩の一部でも理解していただき、ゲノム医療の推進につなげたいと熱弁をふるった。招待したマレーシア人の弟子が「昨日の癌学会の時と比べてずいぶんゆっくり話をしていましたね」と指摘したが、その通りだ。

私は、スライドも専門家向け(日・英)、臨床家向け(日・英)、一般の方向け(日本語のみ)の5パターンを用意している。そして、話すスピードも、高速・中速・低速の調節ができる。癌学会はとびきりの専門家向けで、35分のスピーチに60枚のスライドで超特急で話をしたが、昨日は一般向けの日本語版で60分間60枚のスライドだった。私はゲノムを利用した医療は、もっともっと一般化されるべきだと思っている。そのために、できるだけ多くの方に現状を理解していただくように努力している。ゲノム医療を特定の専門病院だけで利用する時代ではないのだ。国がチマチマとした研究支援体制を続けるなら、大規模病院ネットワークと連携して日本の医療を変えていきたいと思う。今回の講演を通して、病院側で盛り上がってくれることを期待している。

日本のゲノム研究を推進するためには、民間の活力が重要だ。癌学会で、日本のゲノム研究・医療は2005年に止まったと紹介されていた先輩がいたが、その通りだ。故小渕首相が、2000年に発足させたミレニアムゲノムプロジェクトの終了を待って、ゲノム研究に逆風が吹き、世界から大きく取り残された。大御所と呼ばれる人たちの屈折した考えを、盲目的に信じ、追従した役人たちの罪も大きい。あんな時こそ、面従腹背して欲しかった。

そして、11月の最後の日曜日には、「がん患者大集合」(東京医科歯科大学)で、患者さんに直接呼びかけたいと思う。こんなガラパゴス化した医療体制でいいのかと?欲しいもの・必要なものを、国に懇願して何とかしてもらおうなどと考えるのではなく、自らの力で勝ち取って欲しいと願っている。がん対策基本法ができても、日本のがん医療の歩みは遅い。どうすれば、欧米に負けない展開に持っていくことができるのか、過激な発言が飛び出すことに期待したい。

PS: 私たちが生み出した薬剤の治験を受けるために、ニューヨークまで出向いた患者さんが、がんが進行したために、治験にエントリーできなかった。昨年の9月に治験を開始するとアナウンスしておきながら、結局、1年間近くかかってしまったことが大きい。以前にも紹介したが、米国で「希望が絶望に変わる瞬間」を体験した患者さんは2度目だ。正直なところ、こんな話を耳にするたびに、胸に激痛が走る。いろいろなことで、一人一人がもっと責任をしっかりと果たせれば、1日でも、1週間でも、1か月でも早く前に進めることができるはずだが、サラリーマン化した人間は日々の生活をいかに無事に過ごすかしか考えていない。言われたことさえ、真面にしない無責任な人間が増えてきたように感ずるのは、私の生き方が古くなってきたのかもしれない。他の案件もあり、これからどうすべきなのか、しみじみと考えさせられる日本滞在だった。そして、治験を受けることができなかった患者さんとご主人の想いを考えると、悲しく、切なく、そして、胸が苦しい。何もできない自分が悔しい。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
シカゴ大学医学部 内科教授、外科教授

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