日銀短観、10年ぶりの回復が意味するものとは

日銀が10月2日に発表した9月の短観では、大企業製造業の業況判断指数(DI)がプラス22となった。前回6月調査のプラス17から5ポイント改善した。22ポイントの改善は2007年9月のプラス23以来、10年ぶりの水準となった。

大企業製造業の業況判断指数は株価指数とも連動性が高く、ここにきての日経平均の上昇の背景には当然ながら、この企業業績の改善も影響していよう。

9月25日の記者会見で、茂木経済財政・再生相は国内景気について「戦後2位のいざなぎ景気(1965年11月~70年7月の57カ月)を超える景気回復の長さになった可能性が高い」との認識を示した。9月も回復となれば、2012年11月から58カ月と「いざなぎ景気」を上回り、戦後2番目の長期回復局面となる(9月25日日経新聞)。

実感なき景気回復とされるが、少なくとも景気が落ち込んでいるわけではない。今回の短観の大企業製造業DIの「2007年9月」以来10年ぶりの回復と、「2012年11月」からの景気回復基調とそれぞれの日付けをみると、今回の景気回復の意味するところが現れてくる。

一見すると2012年11月からの景気回復は、2012年12月の総選挙で登場したアベノミクスによる効果と見えなくもない。日銀が2013年4月に日銀は異次元緩和を呼ばれた量的・質的緩和を決定し、その2013年4月にプラスに浮上した全国消費者物価指数(除く生鮮食料品、コア)は1年後にプラス1.5%まで上昇した。

今回の景気回復には日銀の異次元緩和を中心としたアベノミクスが功を奏したのであろうか。今回の日銀短観の数字の背景として、日銀による緩和効果といった説明はなく「世界経済の回復を背景とした企業業績の好調が景況感を押し上げた」との説明があった。実際には日銀の緩和効果よりも世界経済の回復が日本経済も支えているとみたほうが説明がつく。

アベノミクスやその中心となった日銀の異次元緩和が即、景気や物価に影響を与えたかにみえたのは、あくまでタイミングが良かったに過ぎない。そもそもアベノミクスがスタートする前の2012年11月から景気が改善した背景は、欧州の信用不安という世界的な金融経済リスクの後退によるものとみた方が自然である。金融市場でもリスク回避の巻き戻しが起きつつあるところに、安倍氏の輪転機発言があり、ヘッジファンドが仕掛けて急激な円安・株高が生じ、あたかもアベノミクスが景気に大きく影響したかに見えることとなる。

今回の日銀短観の水準が2007年9月の水準に戻ったということも、ある意味象徴的な出来事といえる。2007年8月に起きたのがパリバ・ショックであった。つまりリーマン・ショックに繋がる一連の金融経済危機がこのころ発生していたのである。リーマン・ショックとギリシャ・ショックに代表される百年に一度とされる2度の危機が収まってきたのが、2012年11月あたりからであり、時間をかけてやっとそれらの危機以前の水準にまで景気が回復してきたといえる。

これについて日銀の異次元緩和がまったく効果はなかったとは言わないまでも、そこまでやる必要性はまったく認められないし、現実に物価に影響を与えていない。FRBはすでに正常化に向けた動きを本格化させているが、日銀は物価目標に縛られて身動きが取れなくなっている。本当にこれで良いのであろうか。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。