「働き方と社会保障の一体改革」を:自民VS希望で見落とされる視点 --- 佐藤 鴻全

2017年10月04日 10:00

<この記事のまとめ>

●解散総選挙での争点は、消費税増税と脱原発の是非となる。北朝鮮・安保・憲法は小池氏が一種の「抱き着き戦略」を採り、争点化が避けられるだろう。

●消費税増税は、安倍首相の「一部使途変更しての増税」と、小池氏の「景気に配慮しての凍結」との対決となるが、何れも単なるソロバン勘定である従来の「税と社会保障の一体改革」議論の枠を出ない。

●これに替え、「働き方と社会保障の一体改革」として、「在職老齢年金減額分の個人積立制度」や「法人税の常設雇用控除」等の新制度の導入により、社会の形を変えるような議論が本来必要である。

解散と消費税

安倍首相が9月28日に衆議院を解散し総選挙が実質的に始まり、10月22日に投開票される。一方、小池都知事が立ち上げた「希望の党」は、民進党を篩に掛けた上で事実上吸収合併し、日本維新の会と東京と大阪の住み分けで選挙協力する事が決まり、自民・公明VS希望陣営の構図があっという間に出来上がった。

北朝鮮危機対応・安保体制・憲法改正の問題は、基本線は同じとしても具体的には少なからず違いはあるはずだが、小池氏が一種の「抱き着き戦略」を採り、争点化が避けられるだろう。喫緊の「米国の北朝鮮への軍事オプション」と「北朝鮮の限定的核保有容認」の是非等を含め、それらの争点は、希望の党から篩に掛けられた民進党左派・社会・共産陣営との間の問題に縮小してスライドした。

安倍首相は解散前の記者会見で、2019年10月に予定する消費税率10%への引き上げに伴う増収分の使い道を一部変えて教育無償化などにも充当し、社会保障を高齢者給付中心から子育て世代を含む「全世代型」に転換する方針を発表した。その上で「国民との約束を変更し、重い決断を行う以上、速やかに国民の信を問わねばならないと決心した」と説明した。

しかしここからは、この方針が今度こその消費増税に執念を燃やす財務省との妥協の産物であり、景気の腰折れ懸念から本当は増税したくない安倍首相の気持ちが滲む。なお、解散の理由としては、一部では「森友・加計問題隠し」や「年末、年明けに掛けての米軍の北朝鮮攻撃」」のためとも言われ、色々な要因が総合された結果だと推察できるが、ここではこれ以上踏み込まない。

一方の小池氏も消費税増税について、「景気に配慮しての凍結」を謡うものの、元々自民党時代に消費税増税法案に賛成してきた経緯からして、何れも単なるソロバン勘定である従来の「税と社会保障の一体改革」議論の枠を出ないものだろう。

なお、小池氏の唱える脱原発、「原発ゼロ」は、中身と工程が詰められておらず、 保守、中道層をターゲットとしたマーケティング戦略、「グリーン保守戦略」の一環として、希望陣営に彩りを添えるものに留まるのではないか。

慶応大 井出教授の誤り

元々、安倍首相が今回打ち出した「一部使途変更しての消費税増税」は、前原代表が信奉して民進党の(旧)選挙公約へ挙げた、慶応大学の井手英策教授が提唱する、消費税を増税して社会保障を厚くする「オール・フォー・オール」の考えのパクリだとも言われてきた。

どの層に撒くかの違いはあるが、税金を集めて社会保障等で撒くというのは、基本的に社会主義だ。
それは、一定程度あってもいいが、それを進めて行けば社会の生産性が落ち、永遠に増税を続けるイタチごっことなってしまうだろう。

筆者はこれに替え、「働き方と社会保障の一体改革」として、例えば「在職老齢年金減額分の個人積立制度」や「法人税の常設雇用控除」等の新制度の導入により、社会の形を変えるような議論が本来必要と考える。

「在職老齢年金減額分の個人積立制度」について述べると、現状の年金制度では一定以上働くと支給額は減額され「働き損」となり、この事が老齢者を早期の完全年金生活に誘導してしまっている。そこで、この減額分を積み立てて置き、完全年金生活に入った際には一定額を増額支給(但し遺族年金等へは不算入)するようにすれば、老齢者の柔軟な就労を促し、年金支給額の圧縮、医療費の圧縮、消費の拡大、人手不足解消、老後の不安軽減による出生率の増加等に繋がり、年金が老後の保険という本来の機能を取り戻すと思われる。

「法人税の常設雇用控除」は、人を雇い賃金を払う事を奨励する制度である。例えば次の式で出した控除額を、所得控除もしくは税額控除として法人税を算定してはどうか。

控除額 = 総雇用人数の2乗 × 年間支払い給与総額 × α

現在日本では、雇用関係助成金や雇用促進税制、所得拡大促進税制等によって雇用と所得について一定の政策手当がなされている。しかし、これらは規模が小さい上に、基本的に雇用と所得の「増加」に着目した恩典であり、時限的措置であるものも多い。加えて、地方税である事業税には報酬給与額が増えると基本的に税額が一部上がり雇用に対する実質上のペナルティとなっている外形標準課税が導入されており、総務省等はこれを中小法人にまで広げようとしている。

特に今後、急速に産業のAI化・ロボット化が進む事が予想され、それによる雇用の減少は究極的には消費者の消滅を意味するため、新しい常設の雇用税制は各国で導入が検討されるべきである。(なお、その先には消費者を他国製品に奪われないための国際調整措置が必要だろう)

以上のように筆者は、持続的な社会造りのためには、従来型の「労働を伴わない分配」から「労働を伴う分配」への転換が必要と考える。

来る総選挙では、派手な劇場型対決だけでなく、社会の形を変えるような本質的議論を望みたい。

佐藤 鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
ブログ:佐藤総研

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