「選挙」は政治家を狂わせるか

2017年10月05日 11:30

日本では今月10日に公示されて衆院選挙に入る。今月15日に投開票日を控えたアルプスの小国オーストリアの国民議会選(定数183)は既に終盤を迎え、与・野党は最後の力を振り絞って有権者に支持を呼び掛けている。

ところで、オーストリアの与党・社会民主党(党首・ケルン首相)がライバル政党・国民党のクルツ党首(外相)を揶揄する内容のサイトを密かに作成し、ソーシャルネットで誹謗・中傷してきた。そのサイトが社民党関係者によって運営されていたことが発覚し、社民党のケルン首相は弁明に追われている。以下、説明する。

社民党は選挙戦略・世論調査の専門家、イスラエル出身のタール・シルバーシュタイン氏を雇ったが、同氏がイスラエルで不法資金の洗浄などの容疑で逮捕されたことが報じられると、社民党は同氏との顧問契約を即破棄した。ここまではまだ良かった。しかし、同氏が指導し作成させた国民党のホープ、クルツ氏を叩く偽りのサイトは社民党のチームに引き継がれてまだ存在していた。そこにはクルツ氏が反ユダヤ主義者のような印象操作やクルツ氏誕生の背後には大物が操っている様子などがイラスト入りで載っている。もちろん、サイトばかりか、その内容もフェイクだ。シルバーシュタイン氏が知恵を与え、社民党関係者が作成したフェイク・サイトだったのだ。

その事実が先月30日、日刊紙プレッセや週刊誌プロフィールで暴露された。社民党は党内の選挙責任者を辞任させ、事態の鎮静化に腐心した。ケルン首相自身は、「私はフェイク・サイトの件は全く知らなかった。党内に調査委員会を設置し、真相を解明する」と記者会見で表明したばかりだ。顧問料最大50万ユーロともいわれる手数料をシルバーシュタイン氏に払った選挙プロジェクトを党最高指導者がまったく知らなかったということは本来考えられない。

ケルン首相の選挙戦を見ているといろいろと学ばされる。オーストリア連邦鉄道ホールディングの代表取締役から首相に抜擢されて約1年半が経過した。就任直後は実業界出身の紳士といった印象があったケルン首相だが、政治家になって急速に神経質になっていった。選挙で負ければ党から辞任要求が出るのは必至だ。首相ポストをキープするためには勝たなければならないが、敗北は避けられない状況だ。それだけに、ケルン首相の表情には焦りが見えるわけだ。フェイク・サイトは国民的人気者のクルツ外相を叩く最後の手段だったのかもしれないが、ケルン首相自身がその最大の犠牲者になろうとしている。

ケルン首相はここにきてメディアからの質問にも苦渋するようになった。首相の選挙チームの背後を暴いた大衆紙エステライヒ紙に対して、「もはやインタビューに応じない」と脅迫したため、ジャーナリストたちから笑われ、墓穴を掘った。同国の政治学者は、「社民党は戦後から今日まで僅かな期間を除けば常に与党だったから、野党に甘んじることなど考えられないのだ」という。すなわち、これまで享受してきた権力を手放したくないという思いが党関係者には強いわけだ。

選挙は政治家を変えるといわれるが、良くなるのではなく、悪くなるケースが多いのではないか。選挙は民主主義政治の核だ。公正な選挙で国民が願う人物を選ぶ手段だが、現実の選挙戦は個人攻撃が激しさを増し、残虐的ですらある。

オーストリアで2007年に選挙権が16歳に引き下げられた。あれから今年で10年目だ。若い世代は政治家、政党の選挙戦をどのように感じているだろうか。選挙戦では政策論争が少なく、非難・中傷合戦である一方、空約束だけが飛び交う。

バン・デア・ベレン大統領は、「各政党はわが国が今、直面している諸問題への政策論争をすべきだ」と指摘し、行き過ぎた中傷・誹謗合戦に警告を発している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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