イランと北の核ミサイル協力関係

トランプ米大統領は12日にも、「一昨年締結した核合意をイランは遵守していない。イラン核合意は米国の国益にとって不可欠ではない」とした内容を発表するとみられている。ただし、ワシントンからの情報によると、対イラン制裁の再実施までは踏み込まない意向だという。
トランプ米大統領はこれまでイラン問題では核開発だけではなく、中距離弾道ミサイルの発射実験や国際テロ活動の支援活動にも言及し、強い警戒心を示してきた。

▲合意した「行動計画表」を示すIAEAの天野之弥事務局長とイランのサレヒ原子力庁長官(2015年7月14日、IAEA提供)

▲合意した「行動計画表」を示すIAEAの天野之弥事務局長とイランのサレヒ原子力庁長官(2015年7月14日、IAEA提供)

イラン問題では2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action.=JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に一応の終止符を打った。

一方、ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は9月の第61回年次総会でイランが核合意を遵守し、IAEAとイラン間で締結した協定を守っていると報告し、「IAEAは現在、イラン核計画の全容解明に向けて検証作業を続けている」と報告したばかりだ。
天野事務局長は、米国側の懸念に対しては、「イランの核開発は現在、IAEAとのJCPOAに基づき、最も厳密な監視体制下に置かれている。核検証の専門機関としてIAEAは今後も核合意内容の完全履行をテヘランに求めていく」と繰り返し強調した。

イランのロウハニ大統領は7月26日、米国が新たに対イラン制裁を発動した場合、報復すると強調し、米国の出方次第では核合意を破棄してウラン濃縮関連活動を即再開する意向を示唆している。
ちなみに、イランは今年1月29日、中距離弾道ミサイルの発射実験を実施した。ミサイルの飛行距離は約1010キロ。同ミサイルが核搭載可能なミサイルかは、不明だ。イランは9月23日に入っても新たな中距離ミサイルの発射実験を実施し、「成功した」と発表している。

トランプ大統領のイラン核合意への不信は、核査察の検証結果に基づくというより、①イラン核合意の見直しは大統領選の公約だったこと、②トランプ大統領とイスラエルの親密関係、③北朝鮮とイランとの核開発技術協力への警戒、等が背後にあると考えられている。

ここでは③のイランと北朝鮮間の技術協力の現状について少し振り返りたい。2012年9月1日、テヘランで開催された第16回非同盟諸国首脳会談に北朝鮮から出席した金永南最高人民会議常任委員長はイランのマフムード・アフマディネジャド大統領(当時)と会談、イランとの間で「科学技術協力協定」に調印している。イランの精神的指導者ハメネイ師も同委員長との会談で、「両国は共通の敵を抱えている。敵の攻撃に対抗するために相互支援すべきだ」と述べている。

イランと北両国間の協力はさまざまな分野で久しく推進されてきた。例えば、両国間は2007年8月8日、エネルギー分野の協力強化で合意し、北朝鮮は原油と交換でガソリンの供給を申し出ている。軍事分野の協力関係はさらに緊密だ。イランが開発した中距離弾道ミサイル「シャハブ」は北型ミサイルを原型としているといわれる。北が過去、中距離ミサイルをイランに密かに輸出していたという情報もある、といった具合だ。

ただし、両国間の核分野の連携については、情報が分かれてきた。「ミサイル開発の協力は考えられるが、核分野ではわが国は平壌からの技術支援を仰ぐ必要はない」(駐国際原子力機関担当のソルタニエ・イラン前大使)、「私は核物理学者としてテヘラン大学で教鞭をとってきたが、北の科学技術に関する専門書を大学図書館で見たことがない。核分野でわが国の方が数段進んでいる」(サレヒ副大統領兼原子力庁長官)といったイラン側の発言が支配的だった。しかし、北が核実験を実施し、その能力を証明した後、イラン側の姿勢が変わったといわれる。イランが北の核技術を見直した可能性があるわけだ。

両国の「科学技術協力協定」の背景には、国際社会の制裁の影響で技術、資材不足が深刻化し、開発に支障がある、と受け取られている。 両国間の「科学技術協力協定」は核・ミサイル開発で相互の技術・資材不足を補うことが狙い、と受け取って間違いないだろう(「イランと北朝鮮の科学技術協定」2012年9月3日参考)。

北朝鮮は国連安保理決議に反し、今年に入り14回以上のミサイル発射を繰り返す一方、9月3日には6回目の核実験を実施したばかりだ。イスラエルの意向を重視するトランプ政権の登場でイラン側にも核合意を破棄して、核・ミサイル開発を継続すべきだという強硬派が台頭してきた。北側の核・ミサイル開発計画に対する国際社会の圧力が十分な成果をもたらさない場合、イラン側も核・ミサイル開発に乗り出す可能性が排除できなくなる。その意味で、イラン・北朝鮮の核ミサイル技術協力関係を警戒しなければならないわけだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。