ゲノム研究を過小評価した罪は大きい!

2017年10月13日 11:30

今週号のNature誌に、まれな遺伝子多型(非常に少数の人で見られる遺伝暗号の違い)が、遺伝子の発現レベルに影響しているという論文”The impact of rare variation on gene expression across tissues”が報告された。Genotype-Tissue Expression (GTEx)(遺伝子多型とヒトの臓器での遺伝子発現の関連を調べる研究)プロジェクトの成果である。

タンパク質の情報がある部分で見つかった遺伝子多型は、タンパク質の性質の変化を推測することを通して、その重要性が明らかになっていたが(もちろん、ほんの一部だけだが)、タンパク質情報がない部分、特に、遺伝子の発現量に関係すると考えられる部分の遺伝子多型が、遺伝子の発現にどのように影響するのかという情報は限定的であった。449人44組織のデータをもとに、特定の遺伝子のへ発現が、極端に低い、あるいは、極端に高い人の遺伝子多型を調べて興味深い知見を紹介したものだ。

詳細は省くが、このような研究が可能となった背景は、DNAシークエンス技術の急速な進歩である。日本は、DNAシークエンス技術が革命的進化を遂げて、ゲノム研究が大きく展開する次代を迎えた、まさにその時、世界の競争から取り残されたのである。実際には、「ゲノムのような学問は無駄だ」という天の声が、日本をゲノム研究レースから引きずりおろしたのである。かつて、ある総理大臣が「天の声にも変な声がたまにはある」と言ったことがあるが、先見性の欠落した「変な声」が「日本のゲノム研究を変にした」のである。

2005年以降、1000人ゲノムプロジェクト(1000人のゲノム情報を明らかにするプロジェクト)が始まったが、日本の貢献はゼロだった。遺伝子多型プロジェクト(国際ハップマップ)では、日本は、米国に次ぐ25%の貢献をしたが、ここで断崖絶壁のように、国際プロジェクトから日本の姿が見えなくなったのである。がんのシークエンスをするプロジェクト(国際がんゲノムプロジェクト)はゼロではなかったが、数%の貢献で世界に胸を張ることができるような貢献はしていない。

1000人ゲノムプロジェクトでも、がんゲノムプロジェクトでも、役所に足を運んだが、「ゲノムでは予算はつきませんよ」とつれない反応だった。今では、どうだ。ゲノム研究なくして、病気の研究はできるはずもない。「がんは遺伝子の病気である」ことが明らかであったにもかかわらず、そして、ようやく、がんをゲノムレベルで調べる時代を迎えたにもかかわらず、日本は時代に逆らってしまったのだ。

バイオバンクジャパン研究では、20万人もの患者さんに協力を頂いた。時代が動いた時に、20万人のゲノムをシークエンスしていれば、もっともっと病気の研究に貢献できたはずだ。日本を離れた私の責任が大きいのかもしれないが、この貴重な試料を理解できない馬鹿者が多すぎるのだ。仲良しクラブのような審査をしていて、将来にどのように責任を取るつもりなのか問いたいものだ。

今日、このNatureの論文を読んでいて、「・・・たら」「・・・れば」という想いがこみ上げて来た。少しは科学を理解しろよ、AMEDは!


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
シカゴ大学医学部 内科教授、外科教授

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