憲法に明記すべきは「自衛隊」ではなく「軍隊」という語ではないか

2017年10月14日 09:00

首相官邸サイトより:編集部

私は、現行憲法が軍隊を持つことを禁止していない、と考えている。同時に、3項追加改憲案に賛成である。その理由は、憲法解釈が定まらない不利益が大きいので、解釈を確定させるための措置をとることが、適切だと思うからだ。日本人は、数十年にわたり、憲法9条に信じられない規模の労力と無駄を注ぎ込んできた。国民投票をやってでも、解釈を確定させることは、合理的だと思う。

自衛隊合憲論でありながら3項追加を支持する私の立場について、岡山大学法学部の小塚真啓准教授が、「知的**(**は差別用語)というレベルの愚」、「狡猾とも言うべき卑劣」評して、ツィッターで拡散させている。

もし憲法学者の方々が、「篠田の憲法解釈でよい」と学会決議でもしてくれれば、あるいはせめて報道ステーションが「アンケートで9割の憲法学者が篠田説に納得」とでも報じてくれれば、もちろん私は改憲不要論に転ずる。

だがそのようなことが起こる可能性は、ゼロ、である。世界がひっくり返っても、日本の憲法学者が、70年余にわたって培ってきたプライドと社会的地位を投げ捨てて、篠田の存在などを認めるはずはない。したがって私には、解釈を確定させるための3項追加案を支持するしかない。「知的**(差別用語)」かもしれないが、仕方がない。日本社会の圧倒的多数の人々は、総理大臣を含めて、たとえ「**」などと差別されることになるとしても、3項追加なりの措置による解釈の確定を支持するしかない。

この点に関しては、世論でも賛成が多めに出ているようである。そこで、今回の衆議院選挙でも、少し踏み込んだ議論がなされている。10月11日に開催された党首討論において、希望の党の小池百合子代表が、自衛隊だけを憲法で明文化することは、防衛省背広組による文民統制の点で疑義がある、と発言したという。私自身は、文民統制の本質は内局支配だとは考えないので、小池代表の言い方には、すっきりしないものは感じる。諸国の憲法においても、文民統制とは、最高司令官が大統領であることを定めることなどによって、成立している。背広組による制服組の統制は、文民統制のことではない。

そのうえでなお、私は、憲法典に「自衛隊」という語を入れる措置を、名案とは考えない。というのは、憲法典で明記されているのは、国会、内閣、裁判所、といった国家中枢レベルの機関名なので、自衛隊、という一組織の固有名詞の名称を憲法典に書きこむのは、奇妙だからだ。9条の主語が「国民」になっているため、文言上、自衛隊は国民直轄の特別組織になり、たとえば自衛隊の組織改編が国民主権の問題になってしまうのも、厄介である。

ちなみに自民党の憲法改正草案では、「国防軍」が樹立されることになっていた。これは「自衛隊」から名称変更されるものであったらしい。しかし、維持するものが自衛隊と同じなら、名称は同じ「自衛隊」がいい。ただ、その「自衛隊」が「軍隊」であることを明記することが重要だ。

憲法は自衛権行使手段として用意される「軍隊」の保持を禁止していない、という解釈を確定させることが重要だ。それは名称を変えることではない。諸国の憲法でも、憲法典では一般概念としての「軍」の存在を規定しながら、実際の軍隊の固有名詞は別途定めることがある。合衆国憲法で記載されている「army」と「navy」は軍一般を指す概念として解釈されるので、空軍や海兵隊が憲法典に登場しないことは問題にならない。ドイツ基本法が定めるのは「軍隊(Streitkräfte)」で、実際の軍隊の名称である「連邦軍(Bundeswehr)」ではない。

拙著『ほんとうの憲法』では、「前二項の規定は、本条の目的にそった軍隊を含む組織の活動を禁止しない」、という文言を提案した。つまり私は、自衛隊、という言葉よりも、「軍隊」、という言葉を、憲法典に明記したほうが意味が大きいと考えている。自衛隊という言葉を入れるだけだと、最悪の場合、「自衛隊は軍隊なのか?」という俗説的な問いが残されてしまう。そもそも通常法で発明された特定の組織名称を、憲法典が後追いで事後追認するのは、奇妙である。

より意味が大きいと思うのは、「軍隊」が合憲であることを、明白にすることである。そのうえで、「軍隊」としての自衛隊を通常法で規定すれば、「自衛隊は軍隊なのか?」という哲学的な問いに思い悩む必要がなくなる。実際の問題からしても、自衛隊の存在の合憲性をはっきりさせるだけでなく、自衛隊が「軍隊」として存在していることをはっきりさせたほうが、意味が大きい。軍としての規律が必要になる場合に、いちいち躊躇したり、ごまかしたりしなくて済むからだ。

以前に書いたことがあるが、日本政府の見解でも、自衛隊は憲法上の「戦力」ではないが、国際法上の「軍隊」である。しかしこのことが国民に全く知られておらず、誤解にもとづいて「自衛隊って軍隊じゃないんですよね?」という俗論がまかり通ってしまっている。「自衛隊って軍隊じゃないんですよね?」が流通したまま、憲法に自衛隊という語を入れても、混乱が残るだろう。

「前二項の規定は、本条の目的にそった軍隊を含む組織の活動を禁止しない」、といった路線の3項追記を、是非検討していただきたいと思っている。もちろん憲法学者の方々に検討して頂ける可能性はゼロだが、せめてその他の方々には、是非検討して頂きたいと思っている。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年10月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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