天野氏「イランは核合意を遵守」

2017年10月15日 11:30

トランプ米大統領は13日、ホワイトハウスで、2015年7月に締結されたイランの核合意が遵守されていないというイラン戦略を明らかにし、核合意の見直しを要求した。ただし、解除された対イラン制裁の再発効までは踏み込まなく、米議会の判断に委ねた。

▲天野事務局長の新任期を祝するコリンソン総会議長(2017年9月18日、IAEA公式サイトから)

▲天野事務局長の新任期を祝するコリンソン総会議長(2017年9月18日、IAEA公式サイトから)

ワシントン発の上記のニュースが流れると、ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は即声明文を公表し、「イランの核合意を検証する責任を担うIAEAはイランが核合意をこれまで遵守してきたことを理事会や年次総会で発表してきた」と述べ、トランプ米大統領のイラク核合意の見直しにIAEAのトップとして異例の抗議を明らかにした。

以下、13日に公表された天野氏の声明文だ。

Vienna, Austria
Since January 2016, the IAEA has been verifying and monitoring Iran’s implementation of its nuclear-related commitments under the Joint Comprehensive Plan of Action (JCPOA), as requested by the United Nations Security Council and authorized by the IAEA’s Board of Governors.
As I have reported to the Board of Governors, the nuclear-related commitments undertaken by Iran under the JCPOA are being implemented.
The IAEA’s verification and monitoring activities address all the nuclear-related elements under the JCPOA. They are undertaken in an impartial and objective manner and in accordance with the modalities defined by the JCPOA and standard safeguards practice.
Iran is now provisionally implementing the Additional Protocol to its Comprehensive Safeguards Agreement with the IAEA, a powerful verification tool which gives our inspectors broader access to information and locations in Iran. So far, the IAEA has had access to all locations it needed to visit.
At present, Iran is subject to the world’s most robust nuclear verification regime.
最後の文を慎重にもう一度読んで頂きたい。
「イランは目下、世界で最も強固な核検証体制下に置かれている」

イラン問題では2015年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action.=JCPOA)で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に一応の終止符を打った。

トランプ氏のイラン核合意不遵守説は核検証を担当する専門機関IAEAの検証結果とは一致していない。トランプ大統領のイラン核合意への不信は、核査察の結果に基づくというより、①イラン核合意の見直しは大統領選の公約だったこと、②トランプ大統領とイスラエルの親密関係、③北朝鮮とイランとの核開発技術協力への警戒、④イランの国際テロ支援への批判等が背後にあることは疑いがないだろう。

問題は、米大統領が国連専門機関の検証結果を無視するかたちで独自判断を下したことだ。トランプ氏がイラン核合意の見直しを表明した直後、天野氏が間髪を入れずに上記の声明を公表したのは当然の対応だろう。

ここで米国とIAEAとの関係を少し紹介する。

天野氏は今年12月1日から3選目の任期に入る。同氏が日本人として初のIAEA事務局長に選出された直後、欧米メディアでは、「天野氏は米国の意向に完全に従うといった一種の誓いを駐IAEAの米大使に伝達していた」という情報が流れた。最大分担金を支払う米国と対立したら機関の運営が成り立たないことは国際機関の勤務歴が長い天野氏が知らないはずがない。
例えば、米国が脱退した国連工業開発機関(UNIDO)は中国に乗っ取られた。来年末に脱退するパリに本部を置くユネスコ(国連教育科学文化機関)の行く末を考えてみてほしい。通常予算は大幅にカットされ、活動は大幅に縮小せざるを得なくなるだろう。

IAEA内には米国から派遣された多くの専門家が働いている。その一部は情報機関に所属するメンバーだ。彼らは機密の検証情報をメディアに流し、必要ならば情報操作もする。北朝鮮の核問題では、米国の人工衛星からの情報が不可欠だ。IAEAの北情報はほとんど米国に依存している。米国が恣意的に情報を隠蔽することも日常茶飯事だ。天野氏は8月、北朝鮮の核問題専属チームを設置したが、米国からの情報提供がなければ何も出来ないというのが現実だ。

天野氏がトランプ氏のイラン核合意見直し表明に抗議する内容の声明を発表した背後には、IAEAの使命と核検証への誇りがあるだろう。IAEAの活動を無視するような米大統領の姿勢にひょっとしたら怒りが込められているかもしれない。ちなみに、トランプ氏のイラン核合意への見解に対し、イランのロハニ大統領は「全く根拠のない批判」と一蹴している。

天野氏の声明は、トランプ政権の再考を促すか、それとも強い反発をもたらすか。天野氏の外交手腕が問われることにもなる。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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