「国民党」第1党で欧州最年少首相誕生へ

長谷川 良

オーストリアで15日、国民議会選挙(定数183、有権者数約640万人)の投開票が行われ、31歳のセバスティアン・クルツ外相が率いる中道右派政党「国民党」が約31・4%の得票率で第1党に躍り出た。国民党が第1党となるのはシュッセル政権以来。一方、野党第1党の極右政党「自由党」は得票率約27・4%で第2党を確保。クリスティアン・ケルン首相(51)の社会民主党は約26・7%に留まり、第3党に後退した。

その他、議席獲得4%の得票率をクリアした政党は、リベラル政党「ネオス」約5・0%、「緑の党」から派生した新党「リスト・ピルツ」が約4・1%だった。前回(2013年)得票率12・5%を得て大躍進した「緑の党」は約3・3%に終わり、4%のハードルを越えることが難しくなった。郵送分の投票集計は16日から開始され、最終結果は19日に明らかになる予定だ(郵送分の集計次第では第2党と第3党が入れ替わる可能性は残されている)。投票率は約67・6%。

▲勝利宣言するクルツ外相(2017年10月15日、オーストリア国営放送から)

▲勝利宣言するクルツ外相(2017年10月15日、オーストリア国営放送から)

第1党が確実となったクルツ氏は同日夜、「歴史的勝利だ。国民から大きな責任を与えられた。私は党派の壁を超えた新しい政治スタイル、文化を建設するために全力を投入する決意だ」と強調し、勝利宣言をした。

クルツ氏は24歳の時に第1次ファイマン政権(2008年12月発足)で移住民統合促進を担当し、第2次ファイマン政権(2013年12月発足)では27歳で外相ポストに抜擢されるなど、国民党のホープとして期待されてきた。本人はウィーン大学法学部を休学中の立場だ。

社民党のジュニア政権パートナーに甘んじてきた国民党のラインホルト・ミッテルレーナー党首(副首相)が今年5月10日、突然辞任表明すると、クルツ氏は人事権を自身が持つことを条件に新党首に就任し、従来の党中心の人事を改めて、党拘束のないリスト・クルツを独自作成し、党のカラーも従来の「黒」から「トルコ・ブルー」に変えるなど、新しい国民党のイメージ作りに乗り出した。

クルツ外相の勝因は難民政策だ。オーストリアで2015年、多くの難民がシリア、イラクから殺到した時、難民対策を誘導し対バルカン国境線の閉鎖などを実施して、欧州連合(EU)加盟国の中でも最も厳格な難民規制政策を実施し、他のヨーロッパ諸国にも影響を与えた。反難民の自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(48)は、「クルツ外相はわが党が久しく主張してきた政策を実施して成果を挙げた。彼の難民政策はわが党のコピーだ」と皮肉ったほどだ。

一方、オーストリア連邦鉄道ホールディングの代表取締役から昨年5月、政界入りしたケルン首相の社民党は国民的人気のあるクルツ外相叩きに躍起となり、イスラエルから選挙専門家を50万ユーロ以上の契約金で雇い、フェイク情報を流していたことが発覚し、選挙中に選挙担当者が辞任に追い込まれるなど、ダ―ティ・キャンペーンが躓きとなり、苦戦を強いられた。

投票の結果、第1党の国民党と第2党の自由党の2大連立政権が発足する可能性が高まった。両党で183議席中、113議席を占める安定政権となる。クルツ外相は31歳で欧州最年少の首相の道が開かれる。

なお、欧州では、極右政党自由党の政権参加を懸念する声が強い。自由党のシュトラーヒェは、英国のEU離脱決定後、「EU離脱は考えていない。ブリュッセルの官僚主義的運営を刷新し、EUをもっと国民に馴染みある機関とするための改革を要求しているだけだ」と、対EU政策を修正し、同党の反EU路線に危惧を抱いてきた国民を説得するなど、極右政党のイメージを和らげるために腐心してきた。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。