バロンズ:人気のVIXのショート取引、その先に見える混乱

2017年10月16日 16:30

バロンズ誌、今週のカバーは”ブラック・マンデー 2.0”を掲げる。1987年10月18日のブラック・マンデーから30年が経過し、コンピューター取引の存在感が以前より増してきた。クオンツ投資(コンピューターなどを駆使し高度な数量的分析を基にした投資)ヘッジファンドの運用資産は、2007年の4,990億ドルから2017年1〜3月期に9,330億ドルと約2倍も膨らんでいる。ルールに基づき運用される上場投資信託(ETF)は、約3兆ドルは拡大した。いわば、コンピューターで取引されている資産は数兆ドル単位に及ぶ。1998年のLTCM危機や2007年8月には、クオンツ投資で失敗した例もあり、後者は”quant quake(クオンツ地震)”と呼ばれた。今年の10月に何かが起こるのか、詳細は本誌をご覧下さい。

見逃せない取引が抱えるトラブルーThe Trouble With Those Can’t-Miss Trades.

「実に静かだ、静か過ぎる」——とは、ジョン・ウェインの”テキサスの幸運な男(The Lucky Texan)”などをはじめとした映画の名台詞だ。足元の市場環境も同様で、世界各国の株式市場は過去最高値を更新するか、最高値近くで推移するなかで、その上昇は異例なほどスムーズで5%の下落を経験しないままできている。国内政治の問題や国際間の地政学的リスクなど、織り込み済みなのか見向きもしていない。

こうした環境下、スマートな投資家はルースホールド・グループのスコット・オプサル氏が言うところの”最新の確実な取引”にシフトしているという。S&P500のオプション取引で算出され、恐怖指数と呼ばれるVIXのショートに賭けており、実際にVIXは2週間前に過去最低を更新し13日には10割れで取引を終えた。

過去の”確実な取引”リストを振り返ると1970年代はニフティ50(筆者注:ニフティは粋な、素早いなどの意味があり、数年前のネットフリックスやシェイクシャックなど成長が期待される銘柄を指した)のグロース株投資、1990年代のドットコム銘柄、2000年代の住宅関連などが挙げられる。

商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、VIXの先物取引つまり短期先物指数に連動する商品はショートに傾いている。なぜかと言えば、その特性にある。”コンタンゴ”、つまり期先の限月の高く、期近の限月が安くなる状態を指すが、VIXの先物取引は頻繁に危機が発生するわけではないので、この状態が長い。ロールオーバーに合わせ、ショートのポジションが増えるのが自然というわけだ。iPath S&P 500 VIX Short-Term Futures(VXX)やVelocityShares Daily Inverse VIX Short-Term(XIV)で、その傾向が見て取れる。前者のリターンは過去2年間に91%のマイナスだが、後者はVIXが下がった時にリターンを上げるので320%高を遂げてきた。

VIXのショート取引は原油先物が底打ちした2016年2月以降、Fedの利上げでも成長率や金利上昇が振るわないなか、トレンドになった。その2016年2月は、20カ国・地域(G20)財務大臣中央銀行総裁会議が開催された時でもある。当時は米連邦準備制度理事会(FRB)や中国人民銀行、欧州中央銀行(ECB)、日銀が為替レートの安定と共にドル高加速阻止を狙うことで、原油先物の下落を食い止めたとの説が流れたものだ。2016年2月以降、S&P500は40%高を達成し、VIX指数はその陰で下落をたどってきた

VIX指数、異例の低水準で推移。

vix
(出所:Stockcharts)

しかし、”確実な取引”に翳りが見えている。XIVは8月にVIX指数が9.93から15.55へ上昇した時、10日間で25%下落した。同様に、モルガン・スタンレーのクリストファー・メトリ氏は、S&P500が1日で5%安を迎えるならば、40万枚のVIX先物が買われなければならないと分析する。それだけ、”確実な取引”に資金が流入したということだ。

言い換えるなら、強気相場が反転するなかでVIXの買いが膨らみかねず、それは1987年にブラック・マンデーを引き起こしたポートフォリオ・インシュランス(筆者注:株価下落局面で先物を売ってヘッジを行う手段)の21世紀版となるだろう。あるいは10年前の住宅ローン担保証券に対するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、1998年のロシア危機前に各国の国債利回りスプレッドに賭けたLTCMの時のような取引になりうる。

Fedが過去4回の利上げを行い、12月12〜13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpの追加利上げ確率が73.3%に及ぶというのに、ボラティリティは低水準にある。同様に、米消費者物価指数もコアで前年比1.7%と、Fedのインフレ目標値2%に届かない状況だ。Fedが好むコアPCEデフレーターも、年初の1.9%から1.3%まで鈍化している。パイパー・ジャフレーのシニア・エコノメトリック・ストラテジストのディミトリ・デリス氏によれば、利上げは過剰に高い株価やその他金融市場に対する抑制手段だという。同氏いわく、Fedは「資産バブルの指摘が難しい一方で、資産価格上昇のソフトランディングを目指し軟調な経済指標が出てきたとしても利上げし続ける」見通しだ。

逆にECBや日銀は引き続き資産買い入れを行い、Fedの引き締め策を吸収している。もしECBや日銀が緩和策の巻き戻しを図ればボラティリティを急騰させるだろうが、それは恐らく2018年の話だろう。

——米株高が続くなかで、金融政策の中心的役割を担うキーパーソンはイエレン議長をはじめ6月末以降、割高発言を封印し続けています。FOMC議事要旨でみても、7月分に低金利に絡んだ資産上昇へ警戒感を覗かせた程度。9月分では、低インフレに関わる議論が目立ったばかりでバブルへの懸念は挟み込まれていません。Fedがバブル警戒を怠っているとは考えられず、パイパー・ジャフレイの指摘通り利上げで資産価格の上昇を抑えてくる余地を残します。

(カバー写真:doug turetsky/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年10月16日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑