なぜ、日本に本当の「保守政党」はないのか?

田原 総一朗

衆議院選挙が公示された。今回、各党の公約を読んでいて改めて感じることは、日本には保守政党がない、ということだ。

アメリカでは、共和党と民主党がある。イギリスは保守党と労働党だ。いずれも「保守」と「リベラル」の二大政党が闘っている。「保守」は、自由経済だ。だから社会保障は最小限、つまり小さな政府だ。対する「リベラル」は、社会保障を厚くする、大きな政府だ。

保守政党の政権が続くと、少数の勝者に比べて生活が苦しい人びとが増え、格差が広がる。この状況で選挙を行うと、リベラルが勝つことになる。こうして政権交代が実現する。新たに生まれたリベラル政権は、敗者を救うため、社会保障や福祉にどんどん税金を投入する。すると財政が悪化し、次の選挙では保守が勝つ。

アメリカやイギリスといった2大政党制の国では、保守とリベラルが交互に政権につくことで、国家としてのバランスを保っているわけだ。

日本で民主党が誕生したときは、日本も「2大政党制」になると期待された。実際に、民主党が政権をとると、健全な民主主義が確立すると盛り上がったのだ。だが、すでにその民主党自体が、なくなってしまった。いったいなぜか。

日本では、自民党が保守とリベラルの両面を併せ持っていることがその理由だ、と僕は考えている。自民党は基本的には保守政党だ。ところが、経済政策ではリベラル路線なのだ。だから、自民党に対抗しようとする民主党は、政党色を打ち出すのがむずかしい。これが、民主党が混迷を経て、民進党へ変わり、そして現在、実質的な解党に至った要因なのだ。

戦後、自民党は社会保障を厚くした。そして高度成長期が終わり、日本経済が悪化しても、その政策を続けた。思い切った政策転換ができなかったのだ。そのツケがいま、回ってきている。現在、「日本の借金」は1000兆円を超えている。

自民党は、予定通り2019年に消費税を2%上げると表明した。いままで先送りを繰り返してきたが、ついに消費税率が10%になる。ヨーロッパなど先進諸国のほとんどは、消費税率は20%以上だ。高齢化社会への備えと財政再建を考えたら、消費税10%は、やむ得ない決断だと思う。ところが、この消費税値上げには、全野党が反対している。

立憲民主党や共産党は当然だろうが、「寛容な改革保守政党」を謳(うた)う、小池百合子さんの「希望の党」ももちろん反対している。どの政党も財政再建を真剣に考えず、口当たりのいいことしか語らないのだ。こんな国は、ほかにはない。日本には本当の「保守政党」がないのだ。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年10月20日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。