安倍首相率いる与党が大勝、海外メディアはこう伝える

安田 佐和子

第48回の衆院選挙では、自民党と公明党の与党が3分の2以上を確保する大勝に終わりました。海外メディアは、選挙結果について1)安倍政権が経済政策、北朝鮮問題への対応で信任獲得、2)憲法第9条の改正に前進も世論は慎重、3)野党は希望の党が大敗――などを軸に伝えています。米国をはじめとした海外メディアの第一報は、以下の通り。

●日本の安倍政権、衆院選の勝利で3選へ地盤固め(Japan’s Abe Cements Hold on Power With Election Win)―WSJ

→安倍首相は経済政策と北朝鮮への脅威をめぐる自身の舵取りを国民投票で問い、強力な信任を獲得したと報道。安倍首相は1947年に日本国憲法が施行されて以来初の改正に挑むとし、70周年の節目となる2017年5月に「2020年の改正を目指す」との発言を取り上げた。ただし朝日新聞の世論調査を掲げ改正は非常に困難とも報道し、自民党以外に投票したという有権者の声を記事の終わりに紹介。

●日本の安倍晋三、衆院選で大勝し選挙実施リスク報われる(Election Risk Pays Off for Shinzo Abe of Japan as His Party Appears to Win Big)―ニューヨーク・タイムズ紙

→衆院選での大勝を報じつつ、テンプル大学でアジア研究学科のジェフリー・キング教授による「安倍の謎」発言を取り上げる。キング教授によれば、安倍首相は「有権者に不人気で、特に政策が人気なわけではなく、指導者として評価されていないにも関わらず、選挙で勝利できる」ことが謎だという。一方で、スタンフォード大学のアジア太平洋研究センター研究副主幹を務めるダニエル・スナイダー教授が「目の前に恐ろしい脅威が存在し、自分なら対応できるとのメッセージを安倍首相は効果的に伝えた」と分析したとも報道。自民党に投票した有権者の言葉を記事末に取り上げ、与党としての信頼感が有権者の支持を集めたと伝えている。

●安倍晋三、日本の指導者として最長記録に近づく―Shinzo Abe just moved closer to becoming Japan’s longest-serving leader―クオーツ

→安倍首相が2018年9月の自民党総裁選で勝利すれば、首相在任日数記録を更新する可能性があると報道。なお戦後における首相の在任期間が3年に満たなかった首相の数は、24人に及ぶ。

なお在任日数1位は第11代首相の桂太郎氏(2,886日)、2位は第61代首相の佐藤栄作氏(2,798日)、3位は第10代首相の伊藤博文氏(2,720日)。安倍首相は4位で2,100日を超えています。

qz
(作成:My Big Apple NY、出所:Quartz/Atlas

●安倍、衆院選の勝利を経て平和主義憲法の改正を推進へ(Abe to push reform of Japan’s pacifist constitution after election win)―ロイター

→衆院選の大勝を受け、2012年12月に始動した安倍政権は2018年9月の自民党総裁選での勝利を盤石とさせ、2021年までの長期政権に突入する見通しと報道。一方で小泉進次郎筆頭副幹事長の「国民は我々に飽きが来ている」との発言を伝えたほか、憲法改正については公明党が支持するか不透明と指摘。

●安倍、衆院選で力強い信任を獲得(Shinzo Abe secures strong mandate in Japan’s general election)―英ガーディアン

→北朝鮮への強硬路線と憲法改正に向け強い信任を得たと伝えたほか、安倍首相による「あらゆる選択肢を有する」との米国と歩調を合わせた発言を紹介し軍事行動も辞さない構えと報道。トランプ米大統領の11月5~7日の訪日予定を報道することも忘れない。憲法9条の改正については日本国内で世論が分かれ、安倍政権が行動を起こせば中韓の怒りを買うと明記。

●日本の与党、野党分裂の最中に衆院で3分の2を獲得(Japan’s ruling camp wins two-thirds majority in lower house election amid opposition splitting-up)―新華社

→安倍首相率いる与党が3分の2以上(super majority)を獲得する大勝を飾ったと報じ、首相による「勝利に対し謙虚に向き合っていきたい」との発言を紹介。憲法改正への意欲も伝えた。立憲民主党に対しては、選挙2週間前の政党発足にも関わらず希望の党の失速を手掛かりに有権者の厚い支援を得たと指摘。台風21号の猛威に直面し投票率低下が予想されながら投票率は2014年衆院選の52.66%を上回り、期日前投票は過去最高の2,100万人と有権者の20.1%で過去最高を記録したと伝えた。

――個人的には人づくり革命や消費税引き上げにも、触れて欲しかったですね。特に人づくり革命は2兆円の対策を表明済みで、安倍首相も勝利を受け「しっかり公約を実行する」と明言していました、経済政策、構造改革の一環としてもう少し注目されてよい気がするのですが、そもそも“人づくり革命”の英語表記すら定まっていない気がします。10月13日にリリースされた世界銀行・IMF総会の黒田総裁による演説でも、“人づくり革命”の英訳が見当たりません。キャッチ―な言葉を駆使すれば、SNSで拡散して話題を呼べそうなんですけどね。ちなみに、以下は黒田総裁の演説内容です。

日本語「・・また、人生100年時代を見据え、幼児教育・高等教育の負担軽減や、リカレント教育の拡充を通じて人材の質を高めていくこと(「人づくり革命」)の二つに取り組んでいきます。持続可能で包摂的な成長を実現するためにも、引き続き、政府・日銀が一体となって、あらゆる政策手段を総動員して、アベノミクスを一層加速していきます。」

英訳We will therefore upgrade our investment in human capital, including through reducing the financial burden related to early childhood as well as advanced education, and championing recurrent and life-long education. With a view to achieving sustainable and inclusive growth, the government will accelerate Abenomics by all policy tools—monetary, fiscal, and structural—in cooperation with the Bank of Japan.」

WSJ紙などは、日銀総裁人事やカジノを含む統合型リゾート(IR)導入などを取り上げても良かったのではないでしょうか。全般的にNHKの報道を焼き直ししているだけの側面は拭えず、日本の情勢を英語で発信できる情報ソースの必要性を痛感した次第です。

(カバー写真:Dick Thomas Johnson/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年10月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。