中国の政治を理解するための視点⑫(完)

2017年10月25日 06:00

党大会は24日に閉幕(新華社通信より引用:編集部)

第19回党大会が24日閉幕し、「党章」(党規約)の中に「習近平新時代の中国の特色を持つ社会主義思想」が新たな行動指針として盛り込まれた。「習近平の新時代」は原点回帰、伝統の延長に正統性を置いており、新たな思想を語っているわけではない。この点、毛沢東思想とは根本的に異なる。「新時代」のポイントは、自分を正統な継承者だと宣言した点にある。革命世代を引き継ぐ紅二代の総意を集約したものである。

これから職場や学校で大規模な宣伝、学習、教育が開始される。習近平政権下で強調されてきた中華民族の伝統文化や共産党革命史への宣伝が、さらに強化される。もはや今の若者たちには耳に入りにくい内容だが、今後、14億人は自分たちの生活に直接かかわる「二つの100年目標」に向かってひた走ることになる。党中央・地方の幹部や国有企業経営者は、官僚機構で生き残るため、目標値の達成に血眼とならざるを得ない。

習近平は総書記に権力を集中させ、弱体化した集団指導体制を強化することに成功した。周永康らによる暗殺計画の発覚など、返り血を浴びるほどの強い抵抗を受け、党や軍に巣食う膠のような既得権益集団の存在を白日の下にさらした。その旧勢力を根絶することは容易でないが、市場化やグローバル化、新たな産業革命によって、厳しい競争の中、旧来のルールを破る新たなビジネスチャンスが生まれている。

ここから利益を得る開かれた新勢力が、習近平の新たな支援グループを形成していることを忘れてはならない。それはいわゆる「勝ち組」だけではなく、繁栄から取り残され、救済の対象となっている貧困層も含まれる。本来、共産党を支えてきた層である。貧困層の解消は「二つの100年目標」に並ぶ最優先課題だ。

党政府の幹部や企業経営者、メディア人と懇談をする機会がある。習近平による反腐敗キャンペーンの一環としてのイデオロギー統制に対しては、みな息苦しさを感じているが、かつてないほどの水準に達した国の発展に自信を持ち、将来に対しては非常に楽観的だ。もう日本を超えたと錯覚し、傲慢さに走る者もいる。だが大方は、やはり日本の進んだ技術やモノづくりの姿勢、サービスの精神に学ばなければならない点が多い、と謙虚に感じている。それもまた、かつての侵略者を正当に評価できるようになった自信の表れである。

習近平は18日の政治活動報告でも、「人民大衆が最も憎むのが腐敗現象であり、腐敗こそ我々の党が直面している最大の脅威だ」と強調した。王岐山党中央規律検査委書記を引き継ぐ趙楽際・次期同書記のもとで、引き続き反腐敗キャンペーンを強化するであろう。だが、強権による統治には限界がある。委縮した党官僚機構の活力を引き出すには、一定の分野での分権が不可欠となる。このまま国内のネット規制が続けば、知識人は若者たちは逆に、ますます外国文化への志向を強めることになる。ソフトパワーの強化どころではない。

19日、貴州省代表団の討論会に参加した習近平は、地元の酒造工場にかかわる村の女性幹部とこんなやり取りをした。

「(酒の)値段はいくら?」
「99元」
「99元なら安くない、だが高価でもない。高い酒は必ずしも売れるとは限らない」
「総書記の指導、ありがとうございます。私は必ず総書記の指示に従います」

すると習近平はあわてて手を振って発言を遮り、

「これは市場の問題。私は感覚を言っただけ。あなたは市場をみて決めなさい。30元で売っても、売れないかも知れない。やはり市場に従って…」

と念を押した。

権力の集中と市場化の矛盾がささいな会話にも表れている。習近平本人もその難しさを痛感したであろう。

「新時代」と呼べるものがあるとすれば、改革発展の道筋を制度化、法制化させ、強い指導者に頼らない指導体制を築くことにある。鍵を握るのは、政治活動報告で設置が明言された法治建設の党中央指導グループだ。根深くはびこる人治を権力で粉砕したのち、法制度化によって、人治の根を断つことができるかどうか。共産党の歴代の指導者に限らず、近代以降から引き継がれ、なお達成できていないこの課題に成果を残すことができれば、「新時代」の名もそう遜色はないだろう。だが至難である。習近平政権は長期化が必至だ。

(完)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月24の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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