習近平政権2期目の「新時代」的人事④指導理論

2017年10月28日 06:00

新華社より引用:編集部

習近平政権下で中国共産党指導部の文系化が進む。江沢民、胡錦濤の歴代指導者は理系出身で、イデオロギー重視の傾向が強かった。演説も理論用語が多く、それぞれ「三つの代表」論、「科学的発展観」の新理論を党規約に残した。だが、習近平は「中国の夢」「新時代」など、だれにでもわかる平易で、通俗的な物言いが目立つ。文学からの引用も多いが、泥臭い、義理人情に訴えるような表現もある。

新常務委員7人を紹介する記者会見でも、習近平は古詩を引用し、

「不要人誇顔色好、只留清気満乾坤」

とスピーチを結んだ。元代の画人、王冕が、庭の梅を眺めながら詠んだ詩だ。読み下せば、「要(もと)めず 人の 顔色の好(よ)きを誇る。只だ留む 清気の乾坤に満つるを」、大意は「庭に咲く梅の花の色が美しいのを人に自慢しようとは思わない。ただ、清らかな香りがあまたに広がるのを望むだけだ」となる。

人の評価ばかり気にしているのではなく、自分でしっかりやるべきことを実行しなければならない、とのメッセージを込めた。2期目のスタートに当たり、「空談誤国 実幹興邦」(空論は国を誤らせる。着実な仕事が国家を 振興させる)の信念を繰り返したことになる。口から出まかせを並べ、実態は大衆から遊離し、堕落し、腐敗した共産党の惨状が衆目にさらされている。その戒めである。

社会が安定し、発展が複雑化、多様化するに従い、党も人事の登用にあたって実務の経験を重視している。発展の遅れた地方での業績が考課の大きなポイントになる。この点、異色なのが、地方経験が一切なく、江沢民政権以降、中央で一貫し、理論・イデオロギー面での仕事にかかわってきた王滬寧中央政策研究室主任(62)の抜擢だ。

文化大革命時代、上海師範大で特設された外国語習得班に参加し、その後、語学力を生かして上海の復旦大大学院で国際政治を学んだ。同大教授、同大法学院長を経て、1995年から党中央政策研究室で理論研究に従事している。復旦大学時代、上海に一大勢力を築いていた江沢民から再三にわたって説得され、ようやく重い腰を上げた。権力欲の少ない、学究肌で、習近平にとっては扱いやすい人物だ。

習近平の年代はみな文革時代、農村に送られ、農作業を経験した。知識分子を嫌い、実践を重視した毛沢東の下放政策だ。だから正統な高等教育を受けていない。みなランプを照らしながら、思い思いの読書をした。知的エリートに対するコンプレックスも背負っている。だが、王滬寧は異色だ。

毛沢東は資本主義の「腐敗した思想」を排斥する一方、先進的な科学技術と企業管理には高い評価をし、西側の先進知識を学ぶため英語教育を重視した。1970年代、米国との関係打開が動き始めると、外国文化を排斥する文革中ではあったが、周恩来に命じ、外国語教育を早期に復活させ、翻訳要員の養成を急がせた。そこで1971年6月、北京外国語学院が800人の学生を募集したのをはじめ、全国に同様の動きが広がった。この計画によって上海で英語を学んだのが王滬寧である。

習近平のスピーチは、「中華民族の偉大な復興」を多用しているように、民族感情に訴える表現が目立つ。革命色の濃い紅二代の匂いをプンプン漂わせている。どうみても王滬寧が考え出した言葉とは思えない。一方、習近平は、党の正統性を担う紅二代の代表を強く意識し、結党以来の一貫した理想を体現する存在として、自己演出をしている。

この「一貫性」において、歴代指導者の理論を支えてきた王滬寧の存在意義は重い。王滬寧こそ、理系、文系を通じ、論理の一貫性を保証できる最高の逸材なのだ。第19回党大会で登場した「新時代」という新たな概念も、過去と現在、未来をつなぐ巧妙な仕掛けが感じられる。そこに王滬寧の筆先が加わっていると思わずにはいられない。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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