習近平政権2期目の「新時代」的人事⑤台湾問題

2017年10月28日 11:30

Wikipediaより:編集部

習近平2期目の布陣では、台湾問題から目が離せなくなる。習近平は新たな常務委員7人を紹介する記者会見でも、「二つの100年目標」を強調した。「中華民族の偉大な復興」を成し遂げ、世界の強国となる。長年の念願である「中国の夢」を実現するための新たなステージを「新時代」と呼んだ。強国となるための最優先であり、最低限の条件はGDPでも先端科学技術でもない。

領土、民族の統一である。国土が断裂し、民族が分裂したままでは強国とはなり得ない、と習近平らの指導者は考えている。

習近平は活動報告の中で、台湾統一を、14項目連ねた「新時代の中国の特色を持つ社会主義の基本方針」の一つと位置づけ、「台湾問題を解決し、祖国の完全統一を実現することは、中華民族の子孫全体が持つ共通の願いであり、中華民族の根本利益である」と訴えた。この重要案件については、習近平自らが深く陣頭指揮に当たることになる。習近平はかねてより、中台統一を「時間の問題だ」と公言している。

その際、習近平が17年の長きにわたって勤務した福建省での経験が大きな意味を持つ。台湾の対岸で、人的往来も多い。言葉も含め、生活文化も近い。私が籍を置く汕頭大学は、広東省だが福建省に近接しており、方言は福建の閩南語系に属する。台湾からの教師も多く、ジャーナリズム学部の学生は毎夏、台湾の新聞社でインターンをするのが慣行になっている。北京にいてはわからない台湾と大陸の近さを体感できる。

新指導部のメンバーには、習近平が福建時代に目を付けた人材が多く、この点でも有力な助っ人になり得る。政治局員には蔡希・北京市党委書記、宣伝部門を統括する黄坤明、さらには現党中央組織部副部長の陳希も福建出身でゆかりが深い。

民族統一工作を担当する全国政治協商会議のトップは、紅二代である重鎮の兪正声が務めていた。新常務委員の顔ぶれで適任なのは、中央と地方で実務経験を積んできた汪洋・現副首相だ。習近平の意思を忠実に、確実に実行する役割が期待される。かなりのプレッシャーである。現在は62歳。5年後、さらにもう一期続投する余地を残している。どうなるかは本人の実績次第という含みの人事だ。

台湾問題のあおりを受け、南シナ海問題も熱を帯びることが必至だ。台湾の独立を防ぎ、米国の介入を排除するためには、南シナ海、東シナ海から西太平洋に至るシーレーンの確保が不可欠だからだ。日本がこれまでのように、不用意で、過剰な関与をすれば、日本に対する風当たりはさらに強くなるので、要注意である。「アジアで中国に対抗するな」との抗議がしばしば聞かれることになるだろう。中国にとって南シナ海と東シナ海の権益は不可分なので、尖閣問題に飛び火するリスクもある。

中国の南シナ海進出は近年に始まったことではない。南シナ海は戦時中、「日本の海」だった。1951年のサンフランシスコ講和条約で「南沙、西沙諸島に対するすべての権利、権限および請求権を放棄」することが決められたが、帰属先が明示されなかったことから争奪戦が展開される。

中国は広範な領有権を主張したが、内政が混乱し、海軍の建設が遅れていたこともあって島獲得競争から取り残される。ようやく米中関係が改善に向かった1974年、毛沢東が米軍のベトナム引き揚げに乗じ、南ベトナムがフランスから譲り受けた西沙諸島を占領する。そして2600メートルの滑走路や埠頭による軍事基地化を進めた。

1987年以降、南沙にも目を向けるが、有人島はフィリピンやマレーシア、ベトナムが実効支配していたため、無人の岩礁しか残されていなかった。90年代、米軍がフィリピンから撤退すると、中国は岩礁の埋め立てによる人工島建設を加速化させ、空母建設と合わせ海洋進出を着々と進める。

南シナ海は、沿海国による争奪戦のほか、中国が米国と綱引きをしながら、戦後秩序の再構築をもくろんできた複雑な歴史的背景がある。今日的には、中国の経済・軍事面での台頭と、それに対応する米国によるアジア太平洋地域重視の「リバランス(再均衡)」政策が交錯している。「すべての権利、権限および請求権を放棄」し、東シナ海で領土紛争を抱える日本が安易に口を挟むのはリスクが大きすぎる。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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