習近平政権2期目の「新時代」的人事⑥上海人脈

2017年10月29日 14:30

新政治局員メンバーの大きな特徴の一つは上海人脈が目立つことだ。常務委員入りした韓正・前上海市党委書記をはじめ、丁薛祥・党中央弁公庁副主任、 楊潔篪元外相、楊暁渡・党中央規律検査委副書記の計4人。山東出身だが学生時代以来、上海で過ごした常務委員の王滬寧・党中央政策研究室主任を含めれば、政治局員25人のうち五分の一の5人を占める大勢力だ。

これをかつて江沢民元総書記が率いた「上海閥」だと勘違いしてはいけない。実態はその逆で、習近平が最重要経済都市である上海の人脈を、江沢民の意向にかかわらず掌握したことを物語る。大きな権力構造の変化だ。習近平が中央に国家副主席として登用される前、わずか10か月滞在した上海で、すでに有能な人材に目を付けたことは見逃せない。

象徴的な人物が、政治局入りし、栗戦書に代わって秘書役を務める丁薛祥(55)と、要職であるインターネット統制の責任者で党中央宣伝部副部長の徐麟・中央インターネット安全情報化指導グループ主任(54)だ。徐麟は中央委員入りした。いずれも若く、将来が嘱望されている。二人とも一貫して上海勤務で、習近平が上海市党委書記時代、同市常務委員に抜擢した深い縁がある。

とりわけ丁薛祥は、上海時代から習近平の秘書役を務めており、信任が厚い。習近平が2013年12月28日、抜き打ちで北京市内にある老舗肉まんチェーン店「慶豊包子舗」月壇店を訪れ、一般客に交じって食事をした際、隣に付き添ったのが総書記弁公室主任に就任したばかりの丁薛祥だった。

韓正氏(Wikipedia:編集部)

さて、上海人脈でトップの常務委員となった韓正・前上海市前総書記についてである。私は上海勤務時代、記者会見で何度が接しているが、共産主義青年団(共青団)出身に特有の官僚臭が強く、記者の質問に堂々と答えるような大人物の風格はない。記者に囲まれオドオドするようなタイプだ。ある意味、官僚社会では有能な人材なのかも知れない。決してある特定派閥に偏ることなく、その時々の権力の風向きを見て、柳のように身の振り方を変えることができる。習近平が根っから信用しているようには見えない。ただ従順であることは間違いない。

中国共産党は、腐敗の誘発を避けるため、地元出身者はトップの書記につけない不文律がある。これまで唯一、例外扱いだったのが韓正だ。2006年、当時の上海市党委書記、陳良宇は腐敗で摘発されたが、彼は生え抜きだった。この苦い教訓があるにもかかわらず、韓正が上海市長から書記に昇進したのは驚きだった。

実は、陳良宇の後を継いだ兪正声・前全国政治協商会議主席が、上海市党委書記に就任して間もない2007年、上海市長だった韓正を安徽省党委書記に起用し、後任に胡錦濤総書記(当時)の子飼いだった共青団出身の袁純清・陝西省省長(当時)を抜擢する人事が内定した。だが、兪正声が、地元事情に疎い者がトップ二人を占めることを懸念し、白紙撤回させた。国有企業の強い上海市は、伝統的に官僚集団が強固で、外地出身の指導者にはコントロールが容易でないとの定評があった。

胡錦濤の権力基盤が弱く、上海人事を掌握できていなかった証である。袁純清は陝西省省長から山西省党委書記へと出世したが、習近平政権になって山西省幹部が軒並み腐敗で摘発され、本人も事実上、左遷された。同省の腐敗の元凶は、胡錦濤が秘書役として徴用しながら、政権転覆クーデターへの関与を問われ失脚した令計劃・元党中央弁公庁主任の一族によるものだ。現在、その党中央弁公庁主任に、習近平が上海から引き寄せた丁薛祥が就任することを思えば、政治闘争の明暗がくっきりと浮かび上がる。一寸先は闇だ。

習近平が韓正に期待しているのは、コントロールが困難な上海市の連絡役だろう。習近平政権2期目は「二つの100年目標」を達成するため、引き続き経済改革に重点が置かれる。キーを握る重要都市は、トップが政治局員を兼ねる上海、広東の両地域だ。広東省は28日、上海での経験もある甘粛出身の李希が党委書記として赴任し、上海も29日には、隣接する浙江・江蘇省で経験を積んできた李強が党委書記に就任する予定だ。

甘粛・陝西エリアを代表する李希が広東に赴任したのをみて、習近平の父親で、陝・甘革命根拠地を気付いた陝西人の習仲勲が、文化大革命後、広東のトップとして送り込まれ、改革開放の土台を気付いた歴史を思い出した。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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