習近平政権2期目の「新時代」的人事⑧出身地分布

加藤 隆則

常務委員(7人)の出身地分布は、

陝西2(習近平・趙楽際)、安徽2(李克強・汪洋)、河北(栗戦書)、山東(王滬寧)、浙江(韓正)

政治局員(25人)でみると、

陝西3(習近平・趙楽際・張又侠)、山東省3(王滬寧・李鴻忠・許其亮)、浙江3(韓正・陳敏爾・李強)、福建3(陳希・黄坤明・蔡奇)、河北省3(栗戦書・劉鶴・孫春蘭)、安徽2(李克強・汪洋)、上海2(楊暁渡・楊潔篪)、北京(王晨)、李希(甘粛)、河南(陳全国)、湖北(胡春華)、江西(郭声琨)、江蘇(丁薛祥)

となる。習近平の出身地、赴任地が色濃く反映されているが、204人の中央委員で出身地分布をみると、トップに関係なく現れる全体的な傾向を読み取ることができる。以下は18期中央委員の出身地分布だが、19期もおおむね傾向は似ている。

山東は習近平の赴任地ではないが多い。第19期の中央委員でもやはり山東は31人で全体の15%を占め、最多の省だ。2位の江蘇(22人)、3位の河北(18人)を大きく引き離している。山東省の人口は全国の7%を占め二番目に多いものの、中央委員の15%は突出している。18期も山東人は30人で最も多い。ではなぜなのか。

山東人は何でもはっきり言い、剛直な性格だとみられているので、裏技を要する政治の世界には無縁かとも思える。だが、一般的な解説では、山東は孔子のふるさとで、歴史的に宮仕えの学問を重視するからだとされる。中華文明発祥の地、中原地区である。中原地区は概して人口が多いが、経済は立ち遅れ気味で、競争が激しいということもあるかも知れない。かつてはドイツや日本による侵略の舞台となったため愛国心が強く、軍人を多く輩出していることも関係があるだろう。習近平の妻で人民解放軍所属の歌手、彭麗媛も山東省菏沢市出身だ。

上海に近い江蘇と浙江は江南地方と呼ばれ、豊かな土地だが、それぞれ2位、5位で計32人と多い。唐代以来、中国には科挙の最高位である状元が416人誕生しているが、うち江蘇と浙江が114人を占め、全体の27%を超えているというから、伝統的に宮仕えの意識が高いと言える。単なる金持ちではない。

一方、広東省は全国1のGDPを誇り、人口も最多だが、政治局員はゼロで、中央委員も計2人しかいない。0人だった時代もある。経済には熱心だが、北京からも地理的に離れ、政治への関心は低い土地柄が反映されている。近代初期は、康有為や孫文を生んだが、共産党政権下では軍人の葉剣英などを除き振るわない。かつては政治闘争に敗れ、中原地区を追われた流刑の地だっただけに、実利重視になるのはやむを得ないだろう。

四川も人口が多いが、中央委員は4人しかおらず、最低レベルだ。もともと劉備が治めた蜀の地で、物資が豊かだ。生活にゆとりがあり、茶の文化がなお色濃く残っている。殺伐とした政治の世界とは縁遠いのだ。もちろん、鄧小平は四川出身で、例外もあるが。

中央委員が1人しかいないのはチベット、天津、寧夏、雲南だが、中央から離れ、交通の便が悪いチベット、寧夏、雲南は理解できるが、逆に北京に近接する天津も含まれているのはどういうわけか。大都市に近過ぎても、便利な反面、逆に独自の個性を引き出すことができず、埋没してしまうということなのか。

陝西出身の中央委員は6人しかいないが、中央軍事委員の張昇民を含め、最高指導部に4人が集まっているのは際立った特徴だ。習近平の強い意向がにじみ出ている。少数精鋭というべきか。黄土は伝統的にも皇帝を生んできた土地なのである。

民間の言い伝えでは、「江南の才人に山東の将軍、西北の黄土は帝王を生む」というそうだ。中国は地方を知らなければわかったことにならない。それを痛感する。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。