習近平政権2期目の「新時代」的人事⑨対米重視

2017年10月31日 06:00

新たに選出された政治局員25人のうち、実は、官費留学でハーバード大ケネディスクールで学んだ幹部が二人いる。

一人は習近平が経済・財政政策のブレーンとして重用している劉鶴・中央財経指導グループ弁公室主任(65)。旧国家計画委員会(現・国家発展改革委員会)に在籍中の1992年から1年間、米イースト・ウェスト大学ビジネススクールで学んだ後、1994年から1年間、ハーバード大ケネディスクールで国際金融と貿易を専攻し、公共経営修士(MPA)を取得した。

もう一人は、広東、湖北省などで実績を積んできた李鴻忠・天津市党委書記(61)だ。広東省時代の1999年、地方幹部養成コースとしてハーバード大ケネディスクールで短期研修を受けた。李鴻忠はかなり前から、習近平を「指導の核心」と呼び、忠誠を強調していたことで知られる。

劉鶴は、米国とのパイプ役を果たしており、2013年5月、トム・ドニロン前米大統領補佐官が米中首脳会談を前に北京を訪れた際、習近平が「彼は私にとって極めて重要だ」と同席した劉鶴を紹介している。米中の経済を結ぶ劉鶴の存在は大きい。各種のスキームによって党幹部のハーバード大留学が行われており、今後、米国留学組が要職に就くケースはますます増えるに違いない。幹部の昇進と米中人的交流の強化とが一体化し、両国関係の強力な礎になっている構図がうかがえる。

対米関係において、今回の人事でさらに注目すべきは、駐米大使経験のある米国通の楊潔篪・国務委員(元外相)が政治局入りしたことだ。外交担当の国務委員が政治局員に選ばれるのは銭其琛・元副首相以来20年ぶり。楊潔篪は来春の全国人民代表大会で副首相に昇格の見込みだ。習近平の対米重視を象徴する人事である。習近平は2期目が発足した25日、トランプ米大統領と電話会談し、中米関係の重要性を伝えた。

5月の訪日で安倍首相と会談した楊潔篪氏(首相官邸サイトより:編集部)

建国100年を迎える21世紀半ばには世界の強国として台頭しようともくろむ習近平政権にとって、米国は学ぶべき教師であり、乗り越えなければならないライバルである。トランプは、既成概念を打ち破る派手なパフォーマンスで、社会不満を抱える低所得層の支持を集める。その姿は、不文律を打破する高位高官の腐敗摘発と親民スタイルの演出で大衆の人気を得ている習近平と重なる。

中国が取り上げる米国の貧富格差や若者の政治的無関心、金権社会といった「米国病」(『人民日報』)は、中国にも当てはまる課題だ。場合によっては米国以上に深刻である。米中は相互に、国内でヘビー級の難題を抱える。対中包囲網を敷いていた冷戦期、毛沢東は「米帝国主義は張り子のトラだ」と息まいたが、中国自身も今、経済大国の表看板を掲げながら、「世界最大の発展途上国」のお家事情を認めざるを得ない矛盾を抱えている。

だからこそ同じように難局を乗り切る強い指導者の台頭が求められる。トランプが中国を批判し、米国の庶民は留飲を下げ、中国の人民は習近平の反攻に期待する。中国の台頭を強力に引っ張る習近平がトランプを生み、トランプが習近平の権威をさらに高める。こうした反射的関係が生まれるほど米中は接近している。

トランプと習近平を並べて思い浮かぶのはニクソンと毛沢東だ。ニクソンは反共の闘士として名をあげながら、1972年2月、電撃訪中によって20年に及ぶ敵対関係を終結させた。ベトナム戦争やインドへの対応をめぐり、対ソ連包囲網で米中の利害が一致したからだ。国家利益のため融通無碍に重大決断のできる指導者が生んだ歴史的事件だった。

当時、北京でニクソンと1時間以上にわたって話をした毛沢東は、主治医の李志綏に、

「あの男は本音で話をする。持って回った言い方をしない。本音と建前を使い分ける左派の連中とは訳が違うな」(『毛沢東の私生活』)

と漏らした。ニクソンが国益のため反共の立場を一変させ、関係正常化を決断した度量を称賛したのだ。米中間にはイデオロギーを度外視したプラグマティックな発想が横たわっている。毛沢東の教えを忠実に守る習近平は、政治のプラグマティズムも受け継いでいる。台湾など中国が「核心的利益」と呼ぶ原理原則で衝突しなければ、北朝鮮問題や国際貿易ルールなどの問題で利害の一致を見つけるのはそう難しくない。両国の利害が複雑に絡み合うに従い、駆け引きの選択肢も増えている。トランプは組みやすいと考えている中国の党政府幹部は少なくない。

米中の対立や衝突ばかりに目を向けている日本メディアの報道は、国際社会の真実から国民の目をそらしている。最高指導部の人事に明確に表れている米中のホットな接近が、内向き志向によって世界への関心を急速に失速させている日本世論と際立った対照をなすことは、銘記しておいた方がいい。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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