カタルーニャの独立問題で売上が減少している

白石 和幸

Global Panorama/flickr:編集部

1999年からカタルーニャ州選挙において独立支持派の票数が過半数を得たことはない。いつも47〜49%あたりで留まっている。そして、独立反対派の票が僅かにそれを上回っているという現象が続いている。即ち、独立支持派と反対派がほぼ均等に二分しているということである。

しかし、10月27日にカタルーニャ州議会がスペイン政府によって閉鎖されるまで、独立支持派の3政党の議員数が過半数を占めていた。この3政党が独立反対派の意向を無視して過半数の議席を利用してカタルーニャ共和国として発足することを多数決で決定してその第一歩を踏み出そうとしたというのが、カタルーニャの独立に絡む問題を複雑にしたという訳である。

その結果、カタルーニャ州政府はスペイン憲法を蹂躙して独立宣言をしたとして、スペイン政府は憲法155条を上院の承認を得て発動し、カタルーニャの自治機能を停止させたのであった。

10月1日の独立を問う住民投票が実施された日からカタルーニャの将来に不安を感じた企業は登記上の本社を州外に移転させるという行動に出た。スペイン政府が介入してカタルーニャ自治州の機能を停止させてから、企業の本社移転も減少しているそうであるが、10月31日までのひと月で1883社が州外に移転したと記録された。

10月始めにカタルーニャの2大銀行と大手企業40社が本社を州外に移した時点で、それはカタルーニャのGDPに貢献しているその30%を失ったことに匹敵すると指摘された。

企業が本社を州外に移した理由は、カタルーニャが独立すればEUの圏外に置かれ、その影響でユーロ通貨も流通しなくなるということからである。企業経営者や投資家にとってカタルーニャで企業を構えることに魅力があるのはカタルーニャがスペインを構成している自治州のひとつで、単一市場のEU圏に自由にアクセスが出来るからである。

しかし、カタルーニャの将来に不安を感じても会社を州外に移転出来ない企業もある。自営業を営んでいる零細企業である。

現地メディアによると、例えば、バルセロナでオリーブを材料にパテを手づくりしている工房がある。オーナーの名前はロベルト・ルイス。彼のパテは「オリバダ(Olivada)」と呼ばれている。

Olivada(http://elreceton.blogspot.jp/より:編集部)

スペインで料理の評価では高い知名度を誇っているレプソル・ガイドというのがある。このオリバダを使った彼のタパスはこのガイドのタパス部門でベストセブンに2年連続して選ばれた。また、英国のハロッズでも販売されている。彼のタパスは評判が良く2年前には50%の販売伸展を達成したという。

ところが、カタルーニャの独立問題が起きてから、彼のオリバダの販売が70%まで急激に減少したのである。

その影響で、工房を閉鎖せねばならない危機に陥っているという。材料を仕入れる資金にも困っているそうだ。輸出を専門にしている企業と異なり、彼が生産したオリバダの7割はスペイン国内での販売だ。しかも、販売が激減している上に、お客の方も「Made in Catalunya」の商品に消費者が拒絶反応を起こすのではないかという不安から支払いがこれまで即払いであったのが、60日払いという条件を提示して来たそうだ。

販売の回復を求めて従来の顧客に事情を説明した手紙を送ったが、その手紙の内容が政治的な意味合いを含んだものなっていると一部のお客の方から苦情が出て、貰っていた注文を逆にキャンセルするというお客も出て来たそうだ。

現在、スペインの報道メディアのメインニュースは常にカタルーニャの独立問題に関係したものになっており、カタルーニャ以外の地方ではカタルーニャに関係したニュースを聞くのはもううんざりしているという人も多くいるという事情も注文をキャンセルして来たことに間接的に影響している。

カタルーニャ以外の地方でも販売に影響を受けている企業もある。例えば、カタルーニャで特産の「カバ」に対して不買い運動が起きると、そのカバに使うコルク栓も注文が減る。そのコルク栓はアンダルシア地方で生産されている。原材料にトマトを使ったカタルーニャで生産されているトマト缶のトマトも同様にアンダルシアで生産されている。カタルーニャのカカオミルクの大手メーカーCacaolatのミルクはカタルーニャ州に隣接したアラゴン州から仕入れている。

即ち、消費者がカタルーニャの製品をボイコットすることは、同時にカタルーニャ以外の地方で生産されている物もボイコットしていることに繋がるのである。

しかし、多くの消費者はその背景までの詳細は把握していない。スペイン政府で住宅担当大臣も務めた経験のある元議員のひとりはレストランでカタルーニャ産のミネラルウォータを出して来たので、それを拒否したとツイッターした。しかし、彼女が拒否したそのミネラルウォーターはカタルーニャで生産されてはいるが、親会社はフランスの企業だということまでは知らなかったようだ。

同様に強い不安を抱いているのが観光業者である。カタルーニャの観光産業は60億ユーロ(7800億円)の規模のビジネスである。しかし、今年末までに20%の減少が予測されているが、独立問題が長引くと30%までの落ち込みも見込まれている。それは金額にして18億ユーロ(2340億円)に及ぶと予測されている。

スペイン国内でもカタルーニャを訪問するのを避ける傾向が生じている。例えば、高齢者を対象にした観光グループでは50%がバルセロナへの訪問を回避しているそうだ。

スペインの観光産業はGDPで11%を占めている。そして、雇用の13%が観光業に依存している。最近のスペインへの訪問のパターンはバルセロナを玄関という捉え方になっている。その後、マドリードやトレドなどを訪問となる。このバルセロナが独立問題で政情が安定していないということが外国で報道されるとスペインへの訪問を敬遠するようになる。それをスペインの観光業者を懸念している。

出版業界においてバルセロナはスペインの出版物の35%を生産しているが、スペインで最大規模の出版社グループ・プラネタも既に州以外に本社を移転させた。その影響もあって、同社がバルセロナで経営している書店での売上が25%減少、訪問客は50%減少したそうだ。

不動産は8月まで1年間に17%の伸びを見せていたが、現在売買でのキャンセルが発生しているという。

劇場やコンサートのチケットの販売は7割減少している。

カタルーニャでのスーパーマーケットの売上は住民投票が行われた以降2割減少していることが、デ・ギンド経済相によって報告されている。

その一方で、皮肉にも宝くじの販売ではトップのラ・ブイシャ・デ・オール(Bruixa d’Or)は州外に店を移転させてから売上が275%上昇したそうだ。オーナーのシャビエル・ガブリエルは独立支持派でも独立反対派でもない。カタルーニャ州政府が奨励して行われたストの日も店を開けていたことに独立支持派の住民から「なぜ、閉めないのか」と文句を言われたそうだ。彼はインターネットでヨーロッパにも販売している。

11月2日に、スペイン中央銀行が発表した予測によると、今年から2019年までカタルーニャ問題が影響して累積GDPで2.5%の減少が見込まれるという予測を公表した。

12月21日はカタルーニャ州議会の投票日となっている。これからもカタルーニャに関係した報道はスペインで毎日続けられることになろう。