【映画評】シンクロナイズドモンスター

Colossal - O.S.T.

憧れのNYで働いていた作家志望のグロリアは、失業して以来、酒浸りの怠惰な日々を送っていた。ついには同棲中の恋人ティムに愛想を尽かされて家を追い出され、生まれ故郷の田舎町に逃げ帰る。そこで再会した幼馴染のオスカーが経営するバーで働くことに。時を同じくして韓国のソウルに、突如、巨大怪獣が出現。そのニュース映像に世界が騒然とする中、グロリアは、怪獣が自分とまったく同じ動きをすることに気付く。舞い上がったグロリアは、怪獣を操り、世界をさらなる混乱に陥れる。だがそこに“新たなる存在”が立ちはだかることになる…。

ダメウーマンがなぜか遠いアジアに出現した巨大怪獣とシンクロしたことから巻き起こる騒動を描く異色コメディー「シンクロナイズドモンスター」。職なし、家なし、彼氏なし。おまけに酒浸りでぐうたら。そんなダメウーマンを演じるのはオスカー女優の美女アン・ハサウェイというところがまず笑える。米国の田舎町に住むヒロインとソウルの怪獣がどういうわけがシンクロするという設定はなるほど奇想天外なものだが、そこには自分という存在が図らずも他者を傷つけてしまった時、それを反省し正義に目覚めるか、あるいは鬱積したストレスを発散するかのように暴走してしまうのか、というなかなかシリアスな問題が横たわっているのだ。もちろん見て見ぬふりという日和見も選択肢なのだが、主人公グロリアは、この不条理に向き合うことで、自分自身を見つめることになる。一見、おバカ映画路線に見えるが、ベースは見慣れた成長物語なのだ。

スぺイン出身の監督ナチョ・ビガロンドは、怪獣映画が大好きだそうで、このヘンテコなファンタジーを実に楽しんで演出している。誰もがモンスターとシンクロできるわけではないが、正義に目覚めたダメウーマンのパワーをあなどってはいけない。オスカー女優が楽しげに演じる負け犬ヒロインは、あなたの中にもモンスターがひそんでいるかも?と問いかけている。珍作だが何とも憎めない1本だ。
【55点】
(原題「COLOSSAL」)
(アメリカ/ナチョ・ビガロンド監督/アン・ハサウェイ、ジェイソン・サダイキス、ダン・スティーヴンス 、他)
(ダメっぷり度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月8日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。