実は、政府は保育園ニーズを読み間違えている

駒崎 弘樹

政府の有識者会議、子ども子育て会議委員の駒崎です。

今月8日の会議に出席し、どうやら政府は保育園ニーズを過小見積もりしているのではないか、ということに気づきました。

政府発表は32万人

この資料にあるように、政府は今後5年間で32万人の保育量を確保していくことを、3年に前倒ししていこう、としています。

その財源として、企業から支払ってもらう事業主拠出金を3000億円追加徴収することで、あてていこうという計画です。

これで待機児童問題は解決するから、幼児教育無償化に消費増税分を使えるよね、というロジックです。

でも、本当にそうなのでしょうか?

実際は88万人

実は民間のシンクタンク、野村総研が計算した保育の必要量は、32万人では収まっていません。

計算式はシンプルで、2020年の未就学児同数(570.5万人)×2020年に子育てをしている女性の就業率(73.0%)×共働きで保育サービス利用を希望する家庭の率(91%)をすると、377.8万人。

来年度までに整備できる予定の受け皿量が289.2万人。ということは、2020年には差し引き88.6万人の子どもが保育園を必要とする、ということになります。

一方で、政府の32万人というのは、子育て安心プランで数だけ突然示されたもので、どのような計算式でこの数値が導き出されているのか、というのは特に説明がありませんでした。

なぜ大きく乖離するのか

念のため、議員の方経由で厚労省に問い合わせたところ、「各自治体から集まった需要量を合計しました」という返事だったようです。

これは、平成26年に行われた、いわゆる「子ども・子育て支援事業計画に定めるニーズ調査」というもので、各自治体ごとに地域の子育てしている住民を対象に取ったアンケートです。

(参考:内閣府「量の見込み算出のための作業手引き」)

このアンケートには2つの問題があります。

ひとつは、各自治体ごとに「推計児童数」という、将来の児童数を出させているのですが、都市部では、この精度が低くなりがちだということ。

転入などで人口が増える社会増は予測しづらく、つい数年前までは「待機児童は数年以内にピークアウト(解消)する」と各自治体担当者が「推定」していたのは記憶に新しいです。

また、2014年、つまり3年前に当時子育てしている人に聞いているアンケートという点。

今の待機児童世代である、0から2歳は、当時生まれていませんでした。

つまり、新たな趣向やニーズを持っているはずの世代からのデータではないもので、需要を測っているわけです。

例えて言うなら、ハイティーン向けの服屋さんを開店する際に、今ハイティーンがどんなニーズがあるか、を今、調査するのではなく、かつて20代がかつてハイティーンだった時に調査したデータを使っているようなものです。

もちろん、保育は服ほど数年で趣向やニーズ量が変わるものではありませんが、女性の就労率や就労意向は3年前と今では随分変わっていることは間違いありません。

通常はビジネスにおいては、ミクロなニーズ調査と、マクロの統計からの推定を重ね合わせて、差分がある場合はその変動要素をクリアにさせていくわけですが、政府の場合はミクロ調査しかしていないわけです。

そうすると、各自治体ごとでちょっとずつ狂ったものが合計されると、だいぶ大きな狂いになってしまう、という状況になっているのではないでしょうか。

このままだと何が起きるか

2020年に88.6万人の子どもが保育を必要としているのに、政府は「32万人の受け皿づくりを目指して頑張ろう!」と号令しています。そして32万人に合わせて財源を確保しようとしています。

そうすると、このままだと2020年には、差し引き56万人の子どもたちが、保育園に入れない状態になる、ということです。

さらに悪いのは、その時には幼児教育の無償化は決まっていて、財源は無償化に使われることが決められてしまっているため、十分な財源がない、という状況になっていることです。

安倍総理がすべきこと

安倍総理が本当に国難たる少子高齢化を克服したいのなら、まずやることは明白です。厚生労働省保育課に

「ねえ、ちゃんと統計に基づいて試算し直してみてもらえるかな?」

と頼むことです。そして、ゴールとなる数値を明確化することです。

ゴールを明確化すれば、必要な資源量は明確になるので、それを獲得し、投入していけば良いわけです。

そうでなければ、どうして幼児教育無償化などできましょうか。

2020年に、この私の悪い予感が当たらなければ良いのですが。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年11月10日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。