米中会談の仕掛け 日本が汲むべきメッセージ

2017年11月12日 06:00

習近平国家主席夫妻がトランプ大統領夫妻を迎えた「国賓訪問+(プラス)」の破格待遇については、故宮の南北中心軸から見た視点を指摘した。習近平はトランプを招いた故宮参観の際、こんな言葉も残している。

中国新聞より引用

「中国の歴史は5000年以上前にさかのぼるが、中国の文化は悠久で、途絶えることがなかった。今まで継承されているのは、中国だけで、こうした我々は黒い髪、黄色い肌を保ち、自らを龍の子と呼んでいる」

習近平は、スローガンである「中華民族の偉大な復興」の起点を中華文明の発祥に求めており、民族の一貫した伝統を強調しなければならない。それぞれの文化が混ざり合い、刺激し合いながら発展してきた人類史の尺度からすれば、非常に狭隘な見方だ。「龍の子」も多くの少数民族には縁のない伝説だが、56民族と14億人を束ねるためには、中華民族の歴史としてこの架空の物語を言い続けるしかない。

漢族を中心とする中国人は、概して宗教には関心が薄いが、歴史、そしてそれを記録する文字、言葉を強く信仰する。いくら憲法や共産党規約で社会主義を標榜していても、「主義」を信じているわけではない。「中国の特色を持つ社会主義」という但し書きがついている。「中国の特色」が前につけられたとたん、「社会主義」の看板を掲げ、国づくりを進めてきた毛沢東や鄧小平の歩み、つまり人が残した歴史へと信仰の対象が転換している。過去の米中首脳会談に様々な歴史の仕掛けがされてきたのも、歴史を受け継ぎ、新たな歴史を刻むためだ。日本人にとっても他人ごとではない。外野で野次を飛ばしても始まらない。一緒にゴルフをしたぐらいで「友情」をたたえる児戯とは次元が違う。日本人としてどのようにこの歴史の教訓を受け止めるか、という視点を忘れてはならない。

米中両首脳は、皇帝が天下を治める権威の中心である故宮の中心軸に立った。皇帝のみが通行を許される中心軸には、舞い上がる龍の彫られた階段もある。その中心軸に並び、米中のトップ二人で天下を語り合うという趣向だ。

中国新聞より引用

2年前の抗日戦争勝利70年記念では、習近平が中心軸上にある天安門楼上から軍事パレードの指揮をした。米国の要人は参加しなかったが、対日本において米中は事実上の同盟関係にあった。

実は、習近平とトランプの両国首脳が訪れた太和殿の前庭は、その抗日戦争に深いかかわりがある。軍閥が支配していた中華民国時代の1918年、当時の徐世昌大総統が第一次世界大戦の戦勝国として内外の軍を集めた閲兵式の場所が、太和殿の前庭だった。太和殿では1945年10月10日、日本軍の華北方面軍司令官の根本博中将から中国の第11戦区司令官、孫連仲将軍に降伏状が手渡され、日本による北京占領に終止符が打たれた秘話もある。

米中首脳が立った南北中心軸は、盟友として抗日戦争を戦った歴史も刻んでいる。もし習近平がトランプに盟友時代の秘話を打ち明けていたとしたら、相当手の込んだ舞台裏の演出になる。もっとも、大型商談のそろばん勘定を気を取られたトランプは、ほとんど関心を持たなかったに違いないが。

過去の米中首脳会談の隠されたメッセージからも、日本は教訓を読み取ることができる。

昨年9月、主要20か国・地域(G20)首脳会議が浙江省杭州で行われた際の米中首脳会談は、習近平が当時のオバマ米大統領を西湖畔の西湖国賓館に招いた。45年前、電撃訪中をしたニクソン米大統領が周恩来首相と、国交正常化に向けた「上海コミュニケ」を練ったゆかりの場所だ。米中が関係構築の初心に戻ることを示唆したメッセージだったが、日本にとっては頭越しをされた苦い外交の経験、いわゆるニクソン・ショックの記憶が残っている。現在も日本を抜きにした米中の緊密化は着実に進んでいる。

また、習近平が2014年11月、北京のAPEC首脳会談に訪れたオバマ大統領を北京・中南海に招待した際は、「中国近代以降の歴史を知ることは、中国人民の今日の理想と前進の道を理解するために重要だ」と述べた。中南海に政治の謀略がはびこった清朝末、中国は列強の侵略を受け、半植民地となった。米国も侵略に加わったが、後発だったため中国に残した傷跡は少ない。むしろ、深い関係を築くきっかけを残している。

以前にも指摘したが、それは、習近平、胡錦濤をはじめ歴代指導者を多数輩出したエリート校、清華大学の生い立ちに隠されている。

清朝末の1900年に起きた義和団事件では、列強による中国支配に反発した秘密結社・義和団が北京の各国公館エリアや天津の租界を襲撃し、日本や米英露など8か国が連合軍を派遣して鎮圧した。清朝は事後処理として巨額の賠償金を要求された。米国は中国人を米国に留学させるための費用として賠償金を中国に返還し、その資金で設立された留学生養成機関が同大の前身、清華学堂である。

清華大学人脈は今は政権の中枢を占め、深い米中関係を築く強固な土台となっている。日本は中国に最も深い侵略の傷跡を残したが、改革開放にあたっては、どの国よりも大きな貢献をした。それは習近平も天皇陛下の前で認め、感謝している。問題は功罪の伴う日中の歴史を日本側がしっかりと認識し、継承してきているかかということである。

習近平はトランプとの会談で、両国間の青少年を中心とした人的交流を、「先人が木を植え、後に人が樹陰を楽しむ」長期的な事業だと形容した。自らの母校である清華大学の創設エピソードが脳裏にあったのかも知れない。日中間の人的関係に、そうした長期的な視点があるのかどうか。実に心もとない。


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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