5年間のホルモン療法後の長期間乳がん再発率:厳しい現実を前に

2017年11月14日 11:30

先週号の「New England Journal of Medicine」誌に「20-Year Risks of Breast-Cancer Recurrence after Stopping Endocrine Therapy at 5 Years」(5年間でホルモン療法を止めた後の、20年間にわたる乳がん再発リスク)というタイトルの論文が報告されていた。多くのがんでは5年間再発がなければ、ほぼ完治したと考えられているが、乳がんはどこかに潜んでじっとしたまま、5年以上してから突然再発するケースが少なくない。

今回の論文では、EBCTCGというデータベースに登録されていた500,692名の臨床試験に登録された乳がん患者から、5年間だけホルモン療法を受け、その間無再発であった乳がん患者62,923名を追跡調査した結果である。気の遠くなるような数字であるが、このようなデータベースはがん治療の進歩には絶対に必要だ。

乳がんは5年を過ぎても再発するケースが少なくないことから、ホルモン療法を10年間程度まで継続することが多くなっているが、女性ホルモンの働きを抑えると、更年期障害に類似した症状を併発する。副作用のレベルも個体差があるが、それらを規定している要因もはっきりしない。

そして、骨粗しょう症や筋力低下などが日常生活に支障を引き起こす場合もあるので、単純に乳がんの再発予防を優先して、ホルモン療法を継続するという訳にも行かない。そして、この論文では、5年間でホルモン療法を止めた患者さんの5年目以降の遠隔転移リスクが、腫瘍の大きさとリンパ節転移の程度に関係することを明らかにした。

腫瘍の大きさがT1(2センチ以下)でリンパ節転移がなかったケース(N0)で、5-20年間の間に遠隔転移が見つかるリスクが13%、T1で1-3個のリンパ節転移があった場合(N1-3)で20%、T1で4-9個のリンパ節転移があると34%であった。5-10年の年間遠隔転移リスクはT1N0で0.8%/年、T1N1-3 で1.5%/年、T1N4-9 で3.2%/年だそうだ。

腫瘍の大きさがT2(2センチより大きく、5センチ以下)でリンパ節転移がなかったケース(N0)での5-20年間の間に遠隔転移が見つかるリスクは19%、T2N1-3で26%、T2N4-9で41%であった。T1でも1センチ以下でリンパ節転移がないと5-10年間の遠隔転移リスクは0.5%/年と低くなる。そして、病理学的な悪性度が高くなれば、当然ながら再発リスクも高くなる。

約50万人から約6万人に絞りこむ過程で、バイアスがかかっている可能性があるので、この数字が絶対的に正しいかどうかは配慮する必要がある。また、著者も述べていたが、ホルモン療法を5年間受ける予定の患者を選んだのだが、本当に5年間ちゃんと服用していたかどうかが確実でないという問題点もある。また、化学療法の有無や抗HER2抗体療法を受けていたかどうかの情報もない。

しかし、結論として、副作用があっても、命に関わるもではないので、ホルモン療法を長期間受けたほうが望ましいのではないかと述べられていた。確かに細胞傷害毒性の強い抗がん剤に比べれば、副作用のレベルは高くないが、骨粗しょう症が進行した段階で、筋力低下による転倒などで骨折し、寝たきりになるケースもある。人生を長さだけで評価するのではなく、どのように生きたのかを考えることも重要だ。

腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無で違いはあるものの、前述した13-41%の数字は、無視するには大きすぎる。この論文の数字は、間違いなく、厳しい現実を患者さんに突きつけている。この結果が現実の数字であるとしても、20年間も再発リスクを心配しながら生活するのも辛いものがある。

この数字を改善するためには、HER2陽性症例には術後にHER2抗体療法を加えることも一つの方法かもしれない。もちろん、免疫療法を加えると予後は良くなると期待される。しかし、リンパ節転移のない、あるいは、少ない、そして、腫瘍サイズの小さい、再発率の低い症例で臨床試験をするには、膨大な費用が必要となる(観察期間が長くなるほど、臨床試験の経費は嵩んでくる)。この厳しい数字を改善し、再発の不安を低減するためには、臨床試験の制度設計から考え直す必要があると思う。

もちろん、国の責任においてだ。がんの臨床は大きく変わりつつあるが、固定概念という呪縛が、進歩を妨げている。科学的・論理的な発想を臨床現場で速やかに評価できるような体制作りをしないと、日本は欧米だけでなく、中国にもすぐに追い抜かれるだろう。嘆いているだけではどうにもならないことはわかっているのだが、タメ息しか出てこない自分が悔しくもある。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
シカゴ大学医学部 内科教授、外科教授

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