総務省ベンチャー支援事業の間違い

行政事業レビュー秋のプロセス(年次公開検証)が11月14日にスタートした。僕は初日冒頭の「IT・IoTの活用による国民生活の向上」に参加し三つの事業を議論したが、中でも「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム」は疑問だらけの事業であった。

新技術を開発したベンチャー企業が市場化直前に遭遇するのが、製品の最終的な作りこみに必要な資金がない、ビジネスモデルを構築し事業をスタートさせる資金がない、という二つの課題である。ベンチャー企業はベンチャーキャピタル(VC)を回り資金援助を求めるが、かなわなかった際に利用するのが「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム」である。

ベンチャー企業が提案書を提出することからプログラムはスタートする。VC50社で提案を審査し、合格するとベンチャー企業は特定のVCと結びつくことができる。両社で計画を洗練させ二次提案書を作成し有識者会議が審査する。こうしてベンチャー企業には技術開発資金が、VCには事業化支援資金が交付される。これがプログラムの仕組みである。

VCは新技術を目利きし、それに基づいて事業化に必要な資金を提供し、また経営指導する企業である。VCは事業が成功しなければ利益が出ないハイリスク・ハイリターンのビジネスである。この原則に沿って自らリスクを取るとVCが決断できた案件はこのプログラムには来ない。それが決断できなかった、いわば二流の案件だけがプログラムに応募される。それをVC連合が審査することで、VCが本来取るべきリスクが軽減されていく。自己資金を投じるべきところを補助金に頼るというのはモラルハザードだが、このモラルハザードを総務省は国費を投じて支援していることになる。

レビューシートにはVCが受領した事業化支援資金のリストが出ているが、1件は360万円、もう1件は260万円の補助金を得たという。新技術を目利きできず、数百万円の事業化支援資金の自己投資を決断できないVCは、ベンチャーキャピタルと名乗るのをやめたほうがよい。

行政事業レビューは「VCのモラルハザードについて詳細に検証したうえで、事業を見直す必要がある。」という結論を出した。ベンチャー企業の中には本当に資金に困っているところもあるから、それを支援する施策はあり得る。しかし、合議制での審査からVCは排除し、VCへの事業化支援資金の提供も中止すべきである。