東京は国際金融都市になれるか?

荘司 雅彦

GATAGより:編集部

約30年前、野村投信に勤務していた頃、私は野村グループの社内誌に「10年後の東京は国際金融都市として発展し、世界中の金融機関が集積するハブになる」という記事を書きました。
決して抜擢された訳でなく、順繰りにお鉢が回ってきて止むなく書いたものなので、エビデンスに乏しい希望的内容でした。

「あれから30年!」今再び、東京都を国際金融都市にしようという案が出ています。
そこで、ビッグバンを経て国際金融都市としての栄光を取り戻したロンドンの事例を見ていきたいと思います。

昨今は、英国のEU離脱でロンドンの地位が危うくなっているという見方もありますが、世界の覇権国米国のニューヨークよりは参考になると思います。

当時の金融監督官庁であったFSAの大口金融・銀行ディレクターのトマス・ヒュータス氏は、「ここ(ロンドン・シティ)では、日本の金融機関や企業も英国の金融機関や企業と同様に扱われる。要件さえ満たせば誰でも参加できる開放性を維持することが国際金融センターの必須条件だからだ」と述べています。

現に、ロンドン・シティでは、人もマネーも国籍不問で、淘汰・再編・活性化が促され、英国の歴史ある金融機関が外資の傘下に入ってもノープロブレムだそうです。

金融機関や企業だけでなく、人に対しても開放的なのがロンドン・シティの特徴です。
JPモルガンのニューヨーク本店などで腕を磨いたエルムガッセン氏は「外国人がより自由にやりやすい」と感じて、ロンドンに拠点を置きました。

大手投資銀行も様々な国の出身者を採用し、従業員の国籍が87に登るところもありました。

また、国際金融に長けた法律や会計の専門家がロンドンに集積した点も、見逃すことはできません。もともといたのか後から入ってきたのかは関係なく、インフラである法制度や会計制度におけるコンセンサスが、公正な競争にとって必須であることに異論はないでしょう。

外資系企業がどんどん押し寄せたためにロンドン市内の家賃は高騰し、庶民にとっては住みにくい街になったそうです。今でも、ロンドンの勤め人は給料の半額を家賃に充てるのが当たり前だとか…。

以上のように、世界中の金融機関に対して平等かつ開放的で、多国籍の人々を惹きつけることによって「貸し席」としてのロンドン・シティが発展したのです。

東京は時差的にニューヨークとロンドンの中間に位置するので、地理的な優位性を持っています。事実、東証の結果がロンドン、ニューヨークの相場に少なからず影響を与えています。

以上、出来る限り客観的な事実を述べてきました。
それを前提として個人的な価値判断を述べると、国際金融都市を育てるのは国家的事業であり、一地方自治体のキャパを超えていると考えます。

金融行政を司るのは金融庁であり、多国籍の人材の環境整備を行うのは(昨今問題となった相続税のように)国の行政機関です。

東京都がいくらあがいても、国の行政機関が前向きにならなければ、真の国際金融都市を育成することは不可能と考えます。

国家的プロジェクトは国の領分とわきまえ、地方自治体としての守備範囲内の業務効率を高め、住民である都民の利益向上を図ることが東京都の使命だと私は考えます。

もちろんこれはあくまで私の個人的な価値判断なので、たくさんの建設的なご意見をいただければ幸いです。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。