続・「シェアリングポリティクス」という新潮流 --- 蒔田 純

11月12日に『「シェアリングポリティクス」という新潮流』という記事を掲載いただいたが、これについて一定の反響があり、いくつか質問もいただいたので、「続編」という形でそれらにお答えしようと思う。「シェアリングポリティクス」の基本的な中身については、上記記事をお読みいただきたい。

「パワーシェアリング」との違いは?

政治学の中には「パワーシェアリング」という考え方が既に存在する。これは、「権力分有」と訳され、文字通り、権力を複数の主体間で分有することを意味する。ストローム(Kaare W Strøm) らによれば、「パワーシェアリング」には3つのタイプがあり、できる限り多様な主体が政治に参加することを保証する「包接型」(クオータ制等)、多様な主体に権力を分け与える「分散型」(地方分権等)、一部の主体の専制を止めるため権限を抑制する「抑制型」(政軍兼職禁止等)がそれである。

「パワーシェアリング」と「シェアリングポリティクス」は以下の点において異なる。第一に、前者においてシェアする権力は統治機構の内部におけるものに限定されるが、後者においては「使われていない権力」を統治機構の外から既存権力に追加する形も含まれる。前回記事で挙げた「ナイトメイヤー」や「ヤングメイヤー」はその典型例である。

また、前者において権力を分有する主体は統治機構の内部の者に限定されるため、当然それらは、法令上定められた正規の手続きに従って選出されるのに対し、後者における選出方法は法令に基づくものとは限らず、権力のシェアに至るまでの手続きは多岐にわたる。「シェアリングポリティクス」においては「選挙」がプラットフォームとしての役割を果たすが、それは、インターネット投票や参加者限定の投票等、多様な形式が想定されるのであり、「パワーシェアリング」に比して、よりラフな構造を内包するものである。

更に本質的な性格の相違として、前者は静的な制度であるのに対して、後者は動的な潮流であり、運動である。「権力の分有」という目的のため法令を通してつくられた「状態」が「パワーシェアリング」であるならば、反映されていない「ニーズ」の権力としての行使・実現に向けた「動態」が「シェアリングポリティクス」である。これ故、前者は永続性が前提とされているのに対し、後者は時限的・流動的であることも多い。

「女性」に関する具体例は?

「使われていない権力(=政治に反映されていない権力)」を持つアクターとして最もイメージしやすいものの一つが「女性」であろうが、これに関する事例も当然出てきている。代表的なのはフランスにおける「男女ペア立候補制」である。

フランスでは、県議会議員選挙において「男女ペア立候補制」という制度が導入されている。この制度の下では、県議会議員選挙の各選挙区において、男女の候補者がペアを組んで立候補しなければならない。有権者は「ペア」に対して投票し、各選挙区からは最多得票を得た1組のペアが当選する。このペアにおいて、男女は同一の政党・会派に所属している必要はなく、当選後は、それぞれが独立した議員として別々に活動を行う。

これは、各党・各会派が選挙戦略のみならず、政策の立案・実施において建設的な協働・連携を行うことが期待されているためである。2015年3月、この制度の下で初めての県議会議員選挙が行われ、男女それぞれ2054人の県議会議員が誕生して、男女比は自動的に1:1となった。

一般的に、女性の政治参加は以前に比べれば相当程度進んでいると言えるが、それでも、行政の長や議会の議員の男女比を見ると、男性の方が多数を占めるケースが多いことは変わりない。これは、全人類における男女比がほぼ1:1であることを踏まえると、単純に考えて、政治においては女性の声が少なからず反映されていないことを意味し、ここに、女性向けの施策や女性目線の取り組み等に関する政治的な「権力」を世の女性と「シェア」する意義が出てくる。フランスの「男女ペア立候補制」は、男女による完全平等な権力のシェアを強制的に実現するための取り組みであると言えよう。

日本における可能性は?

今後、日本においても「シェアリングポリティクス」の動きは確実に拡大していくものと考えられる。例えば、近年わが国においてもLGBTに対する社会的認知が広がりつつあり、自治体や企業の一部でその権利を保護するための施策が行われているが、このような動きが、LGBTの声を政治行政が恒常的に聞くための制度的な工夫につながることも考え得る。

例えば、ブラジルの自治体には市民の意見を吸い上げるための措置として様々な分野における審議会が設置されているが、その中にはセクシャリティに関するものもあり、LGBTを含む性別・性差に関する課題・ニーズを吸い上げる装置としての役割を果たしている 。今後、日本においても更に社会的必要性の高まりが見られれば、LGBTの声を継続的に受け止めるための制度的措置が現実化するかもしれない。

また、近年、「第4次ベンチャーブーム」と言われるように、AI・ロボティクス・IoT・ブロックチェーン等、先端テクノロジーの発達を背景とした新たなサービスを展開するベンチャー企業が続々と生まれている。産業の発展にはそこにおけるプレイヤーの新陳代謝が不可欠であり、革新的なアイデアと技術を持つベンチャー企業は、まさに今後の我が国産業の浮沈を担う存在と言えるが、一方で公的な政策形成の際、「産業界の声」として反映されるのは、重厚長大業界を代表する伝統的な大企業の意見ばかりである。

パーソナルデータの取り扱いや既存の業法に代表される規制の在り方等、新産業の育成を考えた場合に、新たなサービスを展開するベンチャー企業の声こそ大切にされるべきトピックは多数あり、今後、そういった分野における政策形成の際、彼らの意見を「シェアリングポリティクス」的な手法により集約することも検討されてよいだろう。

生まれたばかりの考え方

「シェアリングポリティクス」は生まれたばかりの考え方であり、未だ概念的・理論的に未成熟な部分が多い。筆者は、今後もこれに関する研究・情報収集を進めていくし、折に触れて情報発信も続けていくつもりである。

蒔田 純(まきた・じゅん)法政大学大学院公共政策研究科 兼任講師
1977年生。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。衆議院議員政策秘書、総務大臣秘書官、筑波大研究員等を経て、現在は上記の他、新経済連盟政策スタッフ、北海道厚沢部町アドバイザー等を務める。