ノートには、書いていいことと悪いことがある!それは

尾藤 克之

あなたは、VIPの真の姿を知っているだろうか。「高級料理よりも卵かけご飯が大好き」「会議は10分で必ず完了」「あえて売れていない商品を購入する」。これは、ある執事が見たVIPの真の姿である。今回紹介するのは、『世界のVIPが指名する執事の手帳・ノート術』(文響社)。著者は、新井/直之(以下、新井氏)。

VIPの執事の経験が豊富で、『謎解きはディナーのあとで』(ドラマ版)、『黒執事』(映画版)の執事監修。また、『にっぽんのいちばん長い日』(松竹)では、侍従、女官、大臣役の所作指導を担当している。メディア出演も豊富である。また、画像のように書籍の質感は執事のノートをイメージしている仕上がりが印象的だ。

ノートには、書いていいことと悪いことがある

――打ち合わせには雑談がつきものだ。お互いの緊張をほぐすことを「アイスブレーク」という。その訳のとおり「場を温める」ことが目的だ。

「最初に少し雑談をすることで、よりスムーズに打ち合わせに入ることができます。共通項以外にも、相手の個人的な情報や、趣味嗜好が垣間見えることがあります。好きな俳優や異性のタイプ、あるいは『虎屋の羊羹が好物』といった食べ物の好み、家族構成や生年月日、子供の学校や受験などの私的情報があげられます。」(新井氏)

「覚えておくと、相手との仕事を円滑に進めるうえで潤滑油になりうる情報もあります。ただし、そうした個人的な情報は、なるべくノートには書き留めないようにします。何気なく明かした個人的な事柄を書き留められることを、好ましく思わない人もいるからです。とくに地位の高い人たちは、個人情報の扱いには敏感です。」(同)

――わかりやすく説明すると、個人情報を書き留められるということは、目の前で会話が録音されていることとニュアンスは変わらない。当然いい印象は持たれない。

「彼らが気にするのは、個人情報を『知られること』ではなく、『書き留められる』ことにあります。打ち合わせノートは、公になることを前提にはしていませんから、書き留めておいても、相手に実害が及ぶ可能性は、ほぼないでしょう。それでも、個人情報は、相手の目の前で書かないほうが無難です。」(新井氏)

「雑談の中で、誕生日や家族構成、出身地について触れたとしましょう。相手がノートに書いているのがわかったら身構えてしまいませんか。同様に、仕事以外の個人的な事柄を書きとったことが相手に伝わると、心証を損ないかねません。」(同)

VIPは手帳を予定管理には使わない

――12月も間近になると、大手書店や百貨店には新作手帳の販売コーナーができる。新井氏によれば、VIPになればなるほど、手帳に予定を書かないそうだ。

「多くの人は『手帳に予定を書き込んでいます』とお答えになるでしょう。しかし、VIPにとって手帳は、目標を書くためのツールなのです。私自身も、手帳に目標を書き込むことの効果を実感しています。毎日目標を目にするようになって時間のムダ遣いが減り、将来に向けたアクションを起こせるようになりました。」(新井氏)

「それと比例するように会社の業績も徐々に上昇し、ここ数年、右肩上がりを続けています。お付き合いのある経営者の中には、20年前から手帳に『東証1部上場』と書き続け、最近になってマザーズに上場した人もいらっしゃいます。手帳に記した目標に向かって、着々と進んでいるのです。目からの刷り込み効果は、なかなかのものです。」(同)

――ただし、勘違いしてはいけないのが、書いただけで叶うわけではない。書くことによって、意識に刷り込みながら、具体的な行動に結びつけなければいけない。

「手帳は『自分だけのバイブル』です。逆に決して書き記したくないのは、仕事の愚痴や人の悪口。愚痴や悪口は、書けば書くほど自分の中で増大し、あとにも引きずりやすくネガティブな事柄です。手帳をデスノートにしてはいけません。」(新井氏)

VIPの所作から何を学ぶのか

新井氏は、執事として多くのVIPに接してきた経験がある。そこから見えてくるVIP像は興味深い。例えば、人との争いを避ける点などはその通りだと思う。トラブルは話がこじれても裁判に移行はさせない。解決する時間と労力が惜しいのである。お金で解決する問題ならお金で解決したほうが早い。譲歩してでも妥協するのがVIPの思考だ。

VIPは豊富なお金を所有している。一般人は、お金が手に入ることで幸せになれると「錯覚」をする。しかし、実際にお金持ちになっても幸せとは限らない。人はお金に困らなくなったときに何に幸せを感じるのか。これは非常に難しい問いでもある。人が人生を生きるにあたって何に価値を感じるのか。それがわからなければVIPにはなれない。

残念ながら、ほとんどの人は、お金という存在に縛られてコントロールされて一生を終える。お金という存在を抜きにして何に価値を見出すのか。そして、最終的には、どのように人生を楽しみたいのか。考えさせられるテーマである。

参考書籍
世界のVIPが指名する執事の手帳・ノート術』(文響社)

尾藤克之
コラムニスト