バロンズ:低インフレ下で資産価格の上昇、Fedの対応は?

2017年11月27日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーはエマージング株式市場に焦点を当てる。不動産王で知られたドナルド・トランプ氏は”アメリカ・ファースト”で大統領の座を勝ち取ったが、株式市場では関係なし。2009年3月から続き勢いを失いつつある一方で、エマージング株市場は1年間にわたって米株を上回るリターンを遂げている。中国で国内企業への干渉が強まり、インドでの経済改革は短期的に成長鈍化を招きかねないものの、投資家の注目は変わらず。EPFRグローバルの調査では、足元1年間でエマージング株式市場には850億ドルもの資金が流入し、2010年以来で最大の規模に達した。MSCIエマージング株式市場指数の12ヵ月先株価収益率(PER)は12倍と、米国の18倍、欧州の14倍を大きく下回る。今後はどのような戦略で攻めるべきなのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は2018年2月から新たな体制ヘ移行する米連邦公開市場委員会(FOMC)を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

Fedが実際のところ危惧していそうなこと、それは弱気相場—What the Fed Really Might Fear: A Bear Market.

「僕が恐れていることは何だ?」——米国で有名な絵本作家のスース博士が書いた話に、そんな言葉が出てきて、誰も穿いていない淡い緑色をしたパンツを指す。パンツそのものも彼と同じくらい怖がっているのだが、ここでの教訓は関わりのない何かた誰かを恐れる必要がないということだ。

今日の中央銀行家は、インフレが目標値に到達しないと恐れているようだ。例えばイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、失業率が2000年12月の水準に低下したにも関わらず、目標値2%に届かないインフレを受けて「謎(a mystry)」と語った。

中央銀行家にとって、インフレを上昇させる手段は紙幣をすれば良いとの認識から容易と思われていた。しかし、Fedが注目するコア個人消費支出(PCE)デフレーターは一時期こそFedにより携帯料金の値下げが一因と説明されつつ、9月時点で前年比1.3%の上昇にとどまる。低インフレが長引くなか、イエレンFRB議長は21日にNY大学で行った講演で、インフレが2%以下で推移する環境が長引く可能性に言及した。10月31日〜11月1日開催のFOMC議事録でも目標値以下で推移するインフレが見通しを低下させ、低インフレが継続するリスクを指摘した。

リンゼー・グループのピーター・ブックバール氏は、低インフレは政府による価格設定が一因と語る。例えば医療費がそれにあたり、患者が払う費用ではなくメディケア(高齢者向け公的医療保険)やメディケイド(低所得者層向け公的医療保険)がコアPCEを押し下げていると分析する。ブックバール氏によれば、上昇著しい賃貸住宅が与えるPCEに影響が小さいことも、インフレを抑える要因だという。

コアPCE、低迷を継続。
pce-e1509423269902
(作成:My Big Apple NY)

しかし、足元注目を集める新しい物価先行指標で測ればインフレは3%近い上昇を遂げている。ニューヨーク地区連銀の潜在インフレ指標(UIG)は、10月に前年比2.96%の上昇を示し、9月の2.84%を超えていた。NY地区連銀のUIGでは、消費者物価指数(CPI)が2.25〜3%のトレンドにあるといい、現状の水準を大きく上回る。NY地区連銀の”データ分析の仕組み”は足元のトレンドから生じる歪みを排除する一方、食品とエネルギー価格を除いた”コア”に、UIGは別の変数を加え、最近では資産価格を組み入れた。結果、2001年や2007〜09年に当てはめた場合に早期の景気後退並びにインフレ急低下の力強いシグナルをつかめたという。

NY地区連銀のUIGでは、インフレ加速の兆しが現れている。米株高に加え、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の”サルバトール・ムンディ(救世主)”が4億ド5,031万ドルで落札された事例が物語っていると言えよう。そうなればイエレンFRB議長は実のところ、賃金がなかなか上昇しないことを危惧したのか、Fedの利上げにより膨れ上がった資産価格が下落することを恐れたのか、疑問が生じる。

インフレが上昇の兆しを見せない半面、投資家はインフレ連動債(TIPS)へ史上3番目の規模の資金を流入させた。干ばつの間に洪水保険を購入するのと同じような感覚で、低インフレの環境下で需要が高まった可能性がある。CPIに遅行性があれば、尚更だろう。

しかし、他の指標によれば金融政策がかなり引き締め方向へ傾いたと考えられ、それが低インフレの要因と解釈されつつある。FF禁輸誘導目標は名目上、ゼロ近辺から1.0〜1.25%ヘ引き上げられた。2015年12月からの100bp利上げしてきたわけだが、シカゴ大学のジン・シンシア・ウー氏と国際決済銀行のファン・ドラ・シア氏が算出したウ—・シア・シャドー・レート(Wu-Xia shadow rate)によれば、FF金利は2014年のマイナス3%から現状の1.0〜1.25%に引き上げられたも同然で、これは1994〜95年の利上げサイクル、あるいは2004〜06年の利上げサイクルに相当するという。1994〜95年の利上げの後にメキシコ危機が発生したほか、カリフォルニア州オレンジ・カウンティが破産申請を行い、2004〜06年の利上げの後に金融危機の嵐が吹き荒れたことは記憶に新しい。

BCAリサーチのダーバル・ジョシ氏が言うように、利上げは米株相場を脆弱にさせる。ジョシ氏によれば、利回りがゼロ近辺へ低下する状況で、投資家は非対称な報酬、つまり小さなリターンと価格下落への高いリスクに直面する。利回りが低い状況で、債券と株式の関係は劇的に変わる。利回りの低下は株式のバリュエーションを引き上げることでリスク・プレミアムを低下させ、その割高なバリュエーションは将来の株式リターンを削ぎ利回りの低い債券に似た商品と変わらなくなってしまう。そして米10年債利回りが3%を超えてくれば、株式の割高なバリュエーションを正当化できなくなる

FOMC参加者の間でも、こうした考えが共有されているのかもしれない。資産価格の上昇に懸念を寄せた11月FOMC議事要旨が、それを物語る。Fedは低インフレにも憂慮していたが、インフレが低過ぎる環境での新たな危機の発生を恐れていると考えられる。利下げの余地が足元で限られているためで、言い換えればいま、Fedは利下げ余地を確保するため利上げしなければならない。1970年代、米国は高失業率と高インフレの謎に対応する必要があったが、新たなFRB議長は現状の低インフレと資産価格の高騰にどう対処するのだろうか?


イエレンFRB議長は2018年2月の退任に合わせ、FRB理事から離任すると表明しました。トランプ大統領が次期FRB議長に指名したパウエルFRB理事に対し、上院銀行委員会は28日に指名公聴会を行います。これまではFOMCの見解を繰り返す傾向が強かったパウエル氏ですから、低インフレに懸念を寄せるのでしょう。焦点は、資産価格の上昇について。11月FOMC議事要旨では久々に資産価格の上昇を指摘、短いながらも1段落割いてきました。議事要旨では資産価格の上昇は均衡実質金利の低下が一因と説明していたものですが、これに呼応するなら中間選挙を控え、バブル抑制に利上げペースの拡大で対応しない可能性を視野に入れたい。金融規制緩和への前向きなスタンスと合わせ、今後の金融政策を占う試金石となること必至です。

(カバー写真:Andrew Stawarz/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年11月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑