「南」が「北」より優れている証明?

世界の大多数は韓国は独裁国家・北朝鮮より全ての点で優れていると考えている。当方もそう考えたい一人だが、100%断言できないことが少々悔しくもある。

ラムズフェルド米国防長官(当時)が2002年、夜間の朝鮮半島の衛星写真を紹介し、「韓国は夜でも明るく、北朝鮮は闇の中に完全に消滅している。その南北のコントラストを見れば、南北のどちらが発展しているかという質問の答えは一目瞭然だ」という趣旨の内容を述べたことがあった。

▲ソウル江南大路の夜景(韓国観光局公式サイトから)

朝鮮半島の夜間の衛星写真は明らかだった。韓国は経済成長し、夜も光を灯している。一方、北は暗闇の中に完全に消えていた。経済的発展という観点からいえば、韓国国民は北の国民より数段、幸せだろう。文明が暗闇から光を求めて発展してきた歴史とすれば、光に満ちた環境圏はそれだけで文明の証明だ。

一方、北朝鮮国民はどうだろうか。故金日成主席が目標として掲げてきた「白いご飯に肉のスープを食べ、瓦の家で絹の服を着て暮らす」生活どころか、飢餓寸前の状況下にある。人間の基本的権利すら保証されない国で生きている国民が幸せなはずがない(「北の夜空に輝く星は美しいか」2017年8月18日参考)。

「南北の格差」は衣食住という観点から見れば明確だが、人間はそれだけではないことは言うまでもない。ただし、衣食住も欠けていれば、それ以外の分野を考える余裕がなくなる。衣食住あってこそ次のステップを歩みだすことができる。その意味で、経済的格差は韓国の優位性の決定的な証明ともなるわけだ。

なぜ、今更そのような話をするのかを説明する。

北朝鮮兵士が今月、射撃されながらも韓国に命懸けで亡命したが、その兵士が意識回復すると「テレビを見せてくれないか」と頼んだという記事を読んだ。

23日の東亜日報によれば、元北朝鮮駐英公使の太永浩氏が、「亡命兵士が病床で太極旗を見ながらガールズグループの歌を聞こうとする本当の理由は、目を閉じればまだ北朝鮮で銃弾に追われているという不安感に苦しめられるため、『私が韓国で生きているんだ』と確認し続けようとするもの」と説明したという。 「北亡命兵士は韓国のガールズグループの歌が好きだ」と証言する医者の話も報じていた。

大韓航空機爆発テロ事件(1987年11月)が発生して今月29日で30年目を迎える。同事件の犯人の一人、女性工作員、金賢姫は逮捕され、ソウルで尋問を受けたが、韓国治安関係者は女性工作員を車に乗せてソウル市内を視察させている。韓国が北朝鮮より優れた国であることを自分の目で確かめさせようとしたわけだ。金賢姫はその著書「いま、女として」(文藝春秋社)の中で証言している。

脱北者は家族を犠牲にし、知人、友人を捨てて韓国に逃げてきた人々だ。生まれた国が韓国だった国民とは出発が違う。彼らが韓国を第2の故郷と感じ出すまでにはやはり一定の時間がかかるだろう。数少ないが、脱北者が韓国社会に失望して北に戻ったというケースもある。

韓国が北朝鮮より優れた国家であり、社会であるという証明を考えてみよう。ソウル市内を車で一周しだだけで、韓国社会の優位性が分かるかは不明だが、少なくとも、国民が自由に行き来し、産業インフラは北より数段優れているのが分かる。北ではガールズグループのような歌を聞けないことは間違いない。しかし、韓国の優位性がそれだけだとすれば寂しいことだ。

韓国は旧日本軍の慰安婦問題に絡んで日本に対して自国の道徳的優位性を主張してきた。それでは、衣食住もままならない同民族の北国民に対して、韓国はその道徳的優位性を主張できるだろうか。

朝鮮半島の危機が囁かれ、南北の再統一問題も決して遠い先のことではない今日、韓国国民は国家の優位性を北に証明しなければならない時を迎えている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。