日銀総裁が指摘したリバーサル・レートの議論

2017年12月06日 11:30

日銀の黒田総裁は、11月13日のスイス・チューリッヒ大学における講演で、「金融仲介機能への影響という点では、最近、「リバーサル・レート」の議論が注目を集めています」と発言し、市場関係者の注目を集めた。黒田総裁はリバーサル・レートについて以下のように説明していた。

「これは、金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方です。」

リバーサル・レートについては、講演議事要旨の注釈に「Markus K. Brunnermeier and Yann Koby (2017), “The Reversal Interest Rate: An Effective Lower Bound on Monetary Policy,” mimeoを参照」とあり、米国のプリンストン大学のブルネルマイアー教授の論文を引用した。リバーサル・レートとはブルネルマイアー教授が考案した概念で、金利がある一定水準を下回ると、かえって貸し出しなど金融仲介機能に悪影響を与えるとの議論である。

リバーサル・レートの議論は、大胆な金融緩和策の副作用ともいえるものであり、何故、黒田総裁はこのタイミングで、この議論を海外の講演で紹介したのか。

日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和と称する大規模な金融緩和策を行っている。いろいろな緩和策をくっつけたような名称となっているが、現実には量的・質的緩和とその後のマイナス金利政策にいろいろな意味で限界や副作用が生じ、それを修正するための手段との見方もできる。

2016年1月のマイナス金利付き量的・質的緩和の導入については金融界からの批判が相次いだ。現実にここにきてメガバンクが大量のリストラ策を発表しているのも、マイナス金利による影響が大きい。マイナス金利政策はECBなどがすでに実施していたが、その効果は見えないにも関わらず、金融機関への収益を大きく悪化させかねないものである。そのため、マイナス金利政策の修正を行ったのが、同年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和策である。

長短金利操作付き量的・質的金融緩和策は一見、短期金利に加えて長期金利も操作目標に加え、追加緩和のようにみえる。しかし、その実態は長めの期間の金利を引き上げ、イールドカーブを少しでもスティープ化させて、金融機関の運用に対する悪影響を軽減させるものである。また操作目標を量から金利に変えたことで、量への呪縛を解くこととなった。

これにより、日銀は国債の保有残高の増加額年間約80兆円という数字は残しているものの、実質は40兆円台となるなどステルステーパリングを行うことが可能となった。これに対して市場は緩和策ではなくなっているのではとの印象よりも、日銀の国債買入への限界を気にしていたことでその不安が多少なり解消されたことをむしろ好感した。長期金利に目標が課せられたことで、国債の利回りが大きく跳ね上がることも抑えられることになった。

日銀の黒田総裁がこのタイミングでリバーサル・レートの議論を紹介したのは、さらなる利下げ観測を牽制したとか、今後の異次元緩和からの微調整の可能性を示唆したとの見方もできなくはない。しかし、それよりも日銀の現在の政策である「長短金利操作付き量的・質的緩和」がリバーサル・レートも意識した上での政策であることを示す目的もあったのではなかろうか。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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