経営戦略と軍事戦略の違い。人と組織を動かす原則とは

2017年12月09日 11:30

いまや「戦略」は、ビジネスシーンでは不可欠なものとして考えられている。では、「戦略の本質」とは何だろうか。とくに、軍事という分野は、そのときの人類が有している知見の最先端の部分が凝縮されている。アメリカの軍事技術であるアーパネットが現在のインターネットの基礎となったのは有名な話である。

今回は、『自衛隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)を紹介したい。著者は折木良一(以下、折木氏)。自衛隊第3代統合幕僚長。12年に退官後、防衛省顧問、防衛大臣補佐官などを歴任し、現在は防衛大臣政策参与の立場にある。

経営戦略と軍事戦略の違い

「企業経営の戦略」「自衛隊の戦略」。ここには決定的に異なる点がある。企業経営において組織構成員が命の危険にさらされながら仕事に取組むことは考えられない。しかし自衛隊の場合は、危険を顧みず、最悪の事態にも備えなければならない。つまり、自衛隊の仕事は「任務」(責任をもって果たすべきつとめ)であることがわかる。

企業経営では利益の追求が成果となる。高い利益を獲得することは経営の成功を意味し、各ステークフォルダーズから評価される。自衛隊の場合は、有事の際の成果は見えやすいが平時には具体的な成果は見えにくい。しかし、平時においても上司と部下の相互信頼は任務を遂行する上で重要とされる。リーダーシップの根本になるからである。

上司は任務遂行と部下に対する責任があり、部下は上司に対して任務を全うする責任がある。相互が任務を遂行することによって信頼感が生まれる。部下がリーダーや組織のために何かをしたいと思うのは、リーダーに対する信頼感であり、リーダーもそれに応えなければならない。折木氏は必要な要点が5つあると主張する。

「いずれも奇抜なことではありません。しかし松下幸之助がいうとおり、当たり前のことを実行するのがいちばん難しいのです。」(折木氏)。つまり、戦略を遂行するのは人であり、内容はシンプルなほうがいいということになる。以下に、5つの要点を紹介したい。

1)リーダーの使命感と情熱が部下との信頼関係を築く
上に立つリーダーの任務に対する使命感と情熱が必要になる。使命感と情熱のないリーダーに部下は付いて行かない。これは企業経営においても同じことがいえる。

2)達成すべき任務の重要性・意義を認識させる
自分の任務を理解するだけではなく、組織全体が進むべき方向や自分の立場、役割をしっかり認識させることが必要になる。企業経営においても同じことがいえる。

3)話を聞いてやる
上級組織と下級組織のあいだにあって、上司は、部下が抱えているその課題や悩みをまず聞くというスタンスが求められる。あなたは部下の話を聞いているだろうか。

4)現場のことは現場に任せる。そして権限を与える
困難な状況のときこそ、リーダーの必要性が認識される。企業経営でも能力の高いリーダーは権限をフルに行使して成果をあげる。そのため適切な権限委譲が必要になる。

5)指導は「性善説」で行なう
普段から指揮下のリーダーや部隊を育てなくてはいけない。あなたの会社では人を育てているだろうか。人が育たないと任務が全うできなくなる。

組織は人で決まる理由

人間は誰でも、信頼されれば成長する。一方で、人は組織に育てられるというのも真理である。例えば、抜擢人事により役職を与えられた社員が高パフォーマンスをあげる場合がある。これは、人と組織の相互作用によって成長していると考えることができる。人によって組織の方向性や戦略遂行能力は決まると考えられる。

自衛隊トップの役職である統合幕僚長を務め、映画『シン・ゴジラ』の統幕長のモデルともされる伝説の自衛官が、戦略の本質を語る。日本のアカデミズムが取り上げない「戦史研究」の意義、危機の現場で人と組織を動かすための極意、地政学を超える「地経学」の真髄が語られる。これは、いままでにない「戦略論の教科書」といえる。

参考書籍
自衛隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)

尾藤克之
コラムニスト

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