「敗者」の新たな連立に正統性あるか

2017年12月09日 11:00

ドイツで歴史的な試みが始まろうとしている。9月24日に実施された連邦議会(下院)で歴史的敗北を喫した与党、メルケル首相が率いる「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)とシュルツ党首の社会民主党(SPD)が大連立政権の再現を目指し交渉を始める。

党大会で演説するシュルツ党首(2017年12月7日、独民間放送の中継から)

ドイツの首都ベルリンで7日からSPD党大会が開催された。そこでシュルツ党首は総選挙の敗北に謝罪を表明する一方、「野党に下野する」といった選挙直後の発言を修正し、CDU/CSUとの連立交渉の話し合いに応じると表明した。

具体的には、今月13日にもCDU/CSUと会談し、その内容を党幹部会が今月15日に協議し、今後のステップを話す。来年初めにも連立交渉が始まった場合、その内容の是非を問う特別党大会を開くというのだ。メルケル首相の少数政権発足についても、「真剣に考えていく」と指摘している。

なお、600人を超える代議員が集まった党大会では、今年3月の臨時党大会で100%の支持で党首に選出されたシュルツ党首が今回約81.9%の支持で党首に再選された。

ところで、CDU/CSUとSPDの大連立交渉がなぜ「歴史的」かを説明する。メルケル首相のCDU/CSU総選挙で第1党の地位こそ維持したが、前回2013年の得票率を8.6%減少させた。同党としては歴代2番目の低得票だった。それよりひどかったのは連立パートナーのSPDだった。前回比で得票率では5.2%の減に留まったが、20.5%の得票率は党歴代最悪の結果だったのだ。換言すれば、歴代2番目に悪い投票結果だったCDU/CSUと党歴代最悪の得票という記録を作ったSPDがここにきて再度、大連立政権の発足を目指して交渉を始めるというのだ。これを歴史的試みと表現したわけだ。独週刊誌シュピーゲルは「敗者の連立政権」という見出しを付けているほどだ。9月24日の総選挙で両党は13.8%の得票率を失ったのだ。

次に歴史的試みが始まった経緯を簡単にまとめる。第1党となったメルケル首相は総選挙の敗北に痛みを覚えながらも「第1党となった以上、政権交渉の最初の担い手」という自覚のもとで、野党「自由民主党」(FDP)と「同盟90/緑の党」との3党によるジャマイカ連立交渉を始めた。さまざまな憶測が交渉舞台裏から流れてきたが、多くのメディアは「ドイツでジャマイカ政権が発足か」と予想していた。ところが、リンドナーFDP党首が4週間の連立交渉後、11月19日、「党の信条を曲げてまで政権に入ることはできない」と言明したため、ジャマイカ連立政権交渉は挫折した。

「ドイツは欧州連合(EU)の盟主」と自負するメルケル首相は「ドイツには安定政権が不可欠だ」と繰り返し強調し、政権パートナー探しを続ける意向を主張。それに救いの手を差し伸べたのがシュタインマイヤー大統領だ。SPD出身の大統領は連立交渉の政党代表を大統領府(ベルビュー宮殿)に招き、政権発足を促した。新たな選挙の実施を回避したい大統領の狙いはSPDを説得し、大連立政権を発足させることにあった。

それでは、なぜシュルツ党首は自身の発言を翻したのか。シュタインマイヤー大統領の巧みな説得工作もあっただろう。連立政権パートナー探しのメルケル首相への憐憫もあったかもしれない。やはりそれ以上に、SPD内の連立政権参加を願う党幹部たちの声が強かったというべきだろう。

欧州議会で5年間、議長を務め、ベルリン政界から離れブリュッセル生活をしてきたシュルツ党首にとって、党内の基盤は脆弱だ。党幹部たちの意向を無視することは難しい。もちろん、少数政権のメルケル政権を間接的に支持するという選択もあったが、「政権で甘い汁を味わってきた党幹部」は利益がない少数政権には批判的だった。SPD内でCDU/CSUとの大連立交渉を強く反対したのは政治的利権から遠いSPD青年党員たちだった。彼らは大連立政権の再現は国民の意向に反すると主張してきた経緯がある。

「下野する」と発言したシュルツ党首が「連立交渉に応じる」と180度、姿勢を転換したことへの批判に対し、シュルツ党首は「党として(国家への)義務感を感じる」と述べている。その上で「連立交渉は無条件で始めなければならない。大連立政権再現という前提では交渉に応じない」と指摘し、交渉次第ではひょっとしたらFDPのリンドナー党首のように颯爽と交渉テーブルを引っくり返すかもしれないことを示唆している。シュルツ党首にとってはこれが最大限の自己弁明だったのだろう。

SPDは来週にもCDU/CSUと連立交渉に入る。その行き先が大連立政権の再現となる可能性はやはり大きい。ドイツには目下、それ以外の選択肢がないのだ。メルケル少数政権はある期間は維持できても、遅かれ早かれ早期選挙の実施となることを避けられない。

ドイツがEUの主導権を握り、フランスのマクロン大統領と共に欧州の改革に乗り出すためには、安定政権が不可欠だ。この説明に異論はないが、総選挙で国民の支持を大きく失った2大政党が大連立政権を再び発足することに有権者はどのように感じるだろうか。敗者による連立の再発足は正しい選択だろうか、という問いがどうしても飛び出してくるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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