巡航ミサイル導入の蒙昧。またも「官邸の最高レベル」の思いつきか

巡航ミサイル(画像はWikipediaの「トマホーク」より:編集部)

またもや軍事音痴の「官邸の最高レベル」の思いつきでしょうか。

防衛相、巡航ミサイル導入正式表明「専守防衛に反せず」(朝日新聞デジタル)

小野寺五典防衛相は8日の閣議後会見で、戦闘機から遠隔地の目標物を攻撃できる複数の長距離巡航ミサイルを導入する方針を正式に表明した。来年度予算案に取得・調査経費を計上する。

導入するのは航空自衛隊の主力機F15に搭載する「JASSM―ER」と「LRASM」(射程900キロ)と最新鋭ステルス機F35に搭載する「JSM」(同500キロ)。

北朝鮮しか念頭になんでしょうね。

まず長射程の巡航ミサイルを運用する前提として、目標に対するISR能力が必要ですが、自衛隊がそれを有しているのか。偵察用人工衛星は勿論、有人無人の偵察機なども殆ど皆無です。空海自は無人機を運用した経験が殆どありません。陸自のヘリ型UAVは毎度ご案内のように、震災という実戦で使用できなかった欠陥兵器です。

空自は博物館アイテムのF-4RJを未だに使っています。これはゴタゴタがあって、F-15を偵察機に改修するのをやめて、F-35をその任務にあてることにしました。F-35が揃うまで、気の優しい周辺諸国は有事なんかおこさない、という自信でもあるんでしょう。人はそれを願望といいます。

今時、パキスタン軍ですらもっとまともにUAVを使っていますよ。いったいどこの土人の軍隊ですか。いっそのこと、腰蓑と槍で武装してはどうですかね、などと皮肉もいいたくなります。

UAV導入が遅れた原因は単純です。当事者意識と能力がなく組織防衛を優先するから。
無人機を導入するとその分、いままで必要無かった予算と人員をとられます。そうすると既存の部隊と指揮官のポストが減ります。それが嫌だということです。

巡航ミサイルを導入するためにはISRインフラの整備が必用ですが、その予算も考えているのでしょうか。
まあ、陸自の対艦ミサイルなんて敵艦を探知する手段もないのに導入しちゃった実績がありますから巡航ミサイルというお守りを買えば国防を全うできると制服の人たちは考えているかも知れません。

そして戦闘機搭載でいいのか、ということです。
北朝鮮だけ想定するならばそれもいいでしょう。
対中国はそれいいんですかね?
何で初めから潜水艦や護衛艦、哨戒機に搭載するというオプションを検討しないのでしょうか。

中国相手にした場合、今の空自の戦力では防空を支えるので精一杯じゃないですか?
近代化するF-15Jは僅か100機ほどです。 F-35Aは前記のように偵察任務にも併用します。
未改修のF-15JやF-2、F-4EJ改は米軍とのリンクができませんから、米軍が戦域に入れてくれません。

稼働率を考えればたかだか100機程度で中国軍相手に航空優勢を確保でき、あまつさえ巡航ミサイルによる攻撃までできるのでしょうか。

航空機搭載型の巡航ミサイルを採用するならば戦闘機の増勢あるいは、既存機の近代化なども必用であり、当然ながら巨額の予算が必用です。

どうも「官邸の最高レベル」と、それに揉み手で追従する内局官僚たちはまともに国防を考える知性に欠けるように思います。

今週の「朝雲」に面白い記事がありました。
海自の第1音響隊では2隻の音響測定艦を運用していますが、クルー制を導入します。例えば3クルーで2隻を回すことになります。そうすれば滞洋率が格段に向上します。これは大変良い試みであります。

ただ海自の人手不足は慢性化しており、現在の人員ですべての艦で実行は無理です。例えば艦隊を縮小する必用があるでしょう。艦の数が減っても滞洋率が高くなれば、戦力は増すことになります。現在のように7~8割程度の乗員ですべての艦隊を維持するよりも遙かにましです。あとは陸自を縮小して、その人員を海自に転籍させて海自の定員と、充足率を上げるという手段も検討すべきです。

これは空自の戦闘機なども同じで、現在実質的に1機に1人の搭乗員(実際はもっといますが、移動や病気療養、休職、機種転換などですべてが搭乗できるわけではありません)しかいません。1機に1人だと24時間で待機して全機出動は無理です。例えば1機に3人の搭乗員がいれば、有事に全機出撃とは行かなくともかなりの機数が上がれるはずです。つまり戦闘機の戦力も戦闘機の機数×能力だけではなく、搭乗員の数(そして質)も重要ということです。そして戦闘機を買うよりも搭乗員を増やす方が遙かに安価だし冗長性ももたせられます。これも予備役制度の拡充とセットで考えるべきです。現在パイロットの予備役はおりません。

■市ヶ谷の噂■
来年度設立を目指す水陸機動団では、指揮官の意向で私物の個人装備はオリーブグリーンのみ許可で、隊員からブーイングとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年12月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。