その土地は誰のもの?「所有者不明土地問題」 --- 高幡 和也

2017年12月12日 06:00

写真はイメージです(写真ACより:編集部)

持ち主が誰だか分からない土地の問題、所謂「所有者不明土地問題」というものをご存知だろうか?

東日本大震災の復興事業でこの「所有者不明土地」が続出し、一気に社会問題化した。

それは以下のような理由のためだ。

震災の復興事業の様な公共の利益となる事業のため、事業者(地方自治体等)は事業用地の取得が必要となることがある。その場合は原則として任意(交渉による合意)の売買契約により土地を取得する。

しかし、任意の売買契約は権利者である相手方の同意が必要であり、同意が得られない場合は事業が進まなくなってしまう。そこで公共事業のためにどうしても対象地を取得しなければならない場合は「土地収用法」により、権利者の意思に関わりなく土地を取得させる「土地収用制度」が設けられている。(※その場合は当然正当な補償が行われる。)

公共事業のために必要な土地を買収するにあたり、まずは事業対象地の地権者を調査するのだが、ここでその土地所有者が不明の場合は「買収交渉を行う相手」がいないので、任意の売買契約どころか土地収用さえままならなくなり、その手続きにかなりの時間と手間を要するという事態に陥ってしまう。これが「所有者不明土地問題」が顕在化した理由だ。

では何故、土地所有者が不明になってしまうのか?

主たる原因は「不動産の登記制度」にあるといっていい。

土地には公の帳簿「登記簿」が備えられている。登記簿は、表題部(地番、地目、地積など)と権利部甲区(所有者に関する事項)及び権利部乙区(所有権以外の権利に関する事項)に区分して作成されている。

この登記簿は「一般公開」されており、土地所有者の特定には前述した「登記簿権利部甲区」に記載された内容が重要となる。これにはその土地の、

「所有者が誰で」(住所氏名)

「いつ」(取得年月日)

「どんな原因(売買、相続など)で所有権を取得したか」

などが記載されているのだ。

この様に登記というシステムは所有者を明確にし、様々な権利関係の調査に役立つとても便利な制度なのだが、実は「万能」ではない。

不動産の表示に関する一定の種類(建物を新築した場合や地目の変更など)の登記については所有者等に登記の申請義務が課せられているが、「権利に関する登記」には申請義務がないのだ。

つまり、実際はその土地に売買や相続による「所有権の移転」があったとしてもその所有権の移転登記には申請義務がないため、実際の所有者と登記上の所有者が異なる場合も少なくないのである。

例えば、あなたが親から不動産を相続したとしよう。その相続による所有権移転登記は申請義務を負わないため、あなた自身(若しくはあなたが選任した代理人)が相続登記を申請しなければ、自宅の土地建物や田畑、山林、私道、その他の未利用地などの登記名義人があなたに変わることはない。それどころか、相続したその不動産の登記名義人がそもそも親ではなく、祖父母、若しくは何代も前の先祖のまま残っているケースも数多く存在するのだ。

上記の様に、登記が伴わない所有者(所有権)の内容の変更が繰り返されれば、その土地は長い年月を経て「所有者不明土地」へと変貌を遂げるのである。

一般財団法人国土計画協会の所有者不明土地問題研究会が本年6月に公表した独自の推計によると、現在所有者が不明の土地は全国で410万haに上るとしている。

東京都の面積が約21万9千haなのでそれと比較すれば410万haという数字がどれだけ膨大で途方もない面積なのかが分かる。

法務省はこの問題に対していくつかの制度的取組みを明らかにしている。その中でも注目すべきは、長期相続登記未了土地の解消を図るため、「法務省自ら」所有権の登記名義人に相続が発生しているかどうかを調査するという取組みだ。

この調査の結果、相続が発生している場合には、相続人となり得る者を調査し、その者に直接的な相続登記の促しを行うとともに、調査結果を登記所に備え付け、事業実施主体における土地利活用にもつなげ、このような土地の解消を図る(平成30年度から実施予定)としている。※法務省民事局「法務省における所有者不明土地問題の解消に向けた取組」参照。

なかなか画期的な取組みだが、しかし、そもそも権利に関する登記(所有権移転登記)に申請義務がない限り、所有者不明土地の調査中に別の「新たなる所有者不明土地が発生」していくという構図は否めない。

また、国土交通省は今月5日、所有者不明土地の円滑な利活用を図る為の新制度案を発表した。主な内容は、公共的な事業の土地収用に関してその手続きを簡略化することに加え、収用対象地以外の土地に関して一定期間、「利用権」を設定できるというものだ。

これもかなり踏み込んだ制度案で、これが機能すれば所有者不明を原因として停滞している様々な公共的な事業の推進速度が上がると思われる。しかし、国土交通省の「視点」は所有者不明土地の「公共的な事業における利活用」にあり、所有者不明土地の根本問題(所有者の特定、今後の発生抑制)の根絶を目指すものではない。

やはり、この問題を根本から解決していくためには、所有者不明土地の円滑な利活用の新制度の創設などと両輪で、所有権移転登記の申請義務の是非なども含め、普通の土地が「所有者不明土地へ変貌する入口を狭める」ための施策が必要なのではないだろうか。

高幡 和也(たかはた かずや) 宅地建物取引士

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