「安倍晋三記念小学院」誤報に見られる論理的誤謬

2017年12月14日 11:30

2017年5月8日、衆議院予算委員会において、民進党・福島伸亨衆議院議員(当時)は、財務省が開示した森友学園の小学校設置趣意書に関する質問を行いました。福島議員は、籠池泰典森友学園理事長の証言を基に、財務省によって黒塗りされたタイトルの部分には「安倍晋三記念小学院」と書かれていると主張し、「そもそも最初の設置趣意書がその名前(安倍晋三記念小学院)であったからこそ様々な忖度がなされ、特例措置が講じられることになった。」と結論付けました[参照映像]

ところが、2017年11月22日に自民党の和田政宗参院議員がその設置趣意書を入手し、黒塗り部分には「安倍晋三記念小学院」ではなく「開成小学校」と書かれていたことが判明しました[産経新聞]。趣意書には安倍晋三記念小学校の校名が記されていたと報じていた朝日新聞は、籠池氏への取材に基づいたことを理由に誤報を釈明しました[朝日新聞]。朝日新聞が事案の当事者である籠池氏の証言のみで不確定な事実を認定したことは、マスメディアのスタンスとしていかがなものかと考えますが、その朝日新聞以上にセンセーショナルにこの事案を報道して大衆を扇動したのは、籠池氏の虚偽の主張を一方的に放映したテレビメディアであったものと考えます。

テレビ朝日「報道ステーション」では、籠池氏の一方的な主張を収録した映像を放映しました。この映像には「朝日新聞撮影」というテロップが入っていることから、朝日新聞とテレビ朝日は一体化して取材を行っていた可能性があります(冒頭写真参照)。言説の内容は以下の通りです[参照映像]

籠池氏
お国の方に申し出をしたときは、一番初めは「安倍晋三記念小学院」だったですから、お国の方に要望を出す前でも、ヒアリングというのかな、初めの前段階の折衝のときも、それでやっていたような記憶を持っていますけどね。

ナレーション
国有地取得要望書には「安倍晋三記念小学院」を設立するためと書いたと説明する。

また、TBS「NEWS23」は、籠池氏に対して長時間にわたるインタヴューを行い、その一方的な主張や反論をたっぷりと放映しました[参照映像]

この記事では、この件に関わる民進党・福島議員およびテレビメディアの言説について詳しく分析し、言説の中に散りばめられた論理的誤謬を指摘したいと考えます。

仮言判断の悪用

衆議院予算委員会における民進党・福島議員の主張は次の3つのステイトメントにより構成されています。

(A)籠池氏は小学校の設立にあたって「安倍晋三記念小学院」と申請した。
(B)財務省の官僚はこの申請を安倍晋三首相の意向と忖度した。
(C)国有地の不合理な払い下げを行った。

確かに、もし(A)であれば(B)となる可能性があり、もし(B)であれば(C)となる可能性がありますが、福島議員はこの単なる「可能性」をあたかも「もし(A)であれば(B)となり、もし(B)であれば(C)となる」という【演繹原理】に基づく【仮言判断】であるかのように主張しました。このように、生起する可能性もあるだけの事象を必ず生起するかのように見せかけることで複数の【仮言判断】で構成される主張の成立を当然視する論証方法を【滑りやすい坂論証/ドミノ理論 slippery slope / domino theory】と言います。

また、福島議員は、申請書が黒塗りされているのは(A)であることがバレることで(B)(C)であることもバレてしまうことを避けたとする【陰謀論 conspiracy theory】を展開することで政府をヒステリックに断罪しました。さらに、一度黒塗りにした公文書を理由なく開示することがないという行政の一貫性をよく理解している福島議員は、特定不能な情報を根拠にして推論する【just-so story / false attribution(物語論証)】で政府に対する【人格攻撃 ad hominem】を行ったものと考えられます。

このような【仮言判断】の確信的な悪用は、人民裁判における吊し上げで多用されるものであり、法治国家における「推定無罪」の原則から大きく逸脱するものです。事実、(A)については籠池氏の虚偽証言であったことが既に確定しており、福島議員が不当に財務省の官僚を罵倒していたことも確定しました。

後件肯定の誤謬

民進党・福島議員は「そもそも最初の設置趣意書がその名前(安倍晋三記念小学院)であったからこそ様々な忖度がなされ、特例措置が講じられることになった」と推論しました。そして、設置主意書のタイトルの非開示に関する答弁する佐川宣寿理財局長が「推測でものを言われるのは少し」と答弁したことに激怒し、「失礼なことを言うな!」と大声で連呼しました。福島議員の推論は次のような三段論法によるものです。

大前提:設置趣意書に安倍晋三記念小学院の記載があると忖度されて特例措置が講じられる。
小前提:忖度されて特例措置が講じられている。
結論:設置趣意書に安倍晋三記念小学院の記載がある。

仮に福島議員の主張する大前提と小前提が真であったとしてもこのような結論を導くことはできません。なぜなら、小前提が成立するにあたって、必ずしも大前提が成立することが要件とはならないからです。この結論導出の方法は【後件肯定 affirming the consequent】と呼ばれる【形式的誤謬 formal fallacy】です。佐川理財局長が「推測で物を言われるのは少し」と答弁したのは極めて論理的であったと言えます。

なお、結果(小前提)と原理(大前提)から小前提(家庭)を推論する福島議員の推論は【アブダクション abduction】と呼ばれ、仮説導出の方法としては誤っていません。誤ったのは、仮説を検証するにあたって、籠池理事長の虚言を証拠として採用してしまったことにあります。そして、それに追従するように、朝日新聞、毎日新聞、テレビ朝日、TBSのいずれもが籠池理事長の虚言を信用し、物証を得ることなしに誤報を発信したと言えます。

循環論法

テレビ朝日の朝のワイドショー「羽鳥慎一モーニングショー」は、設置趣意書の黒塗り部分に「安倍晋三記念小学院」と書かれているという籠池氏の証言を事実として認定し[参照映像]、そのことを前提として憶測のレベルをさらに高めました[参照映像]

羽鳥慎一氏
要望書は土地購入の流れの一番最初に出ている。ここでその小学院なんだということが出ているからスムースに行く。我々(財務省)は、ここ(安倍晋三記念小学院)は(黒塗りで)隠しましたよと。

青木理氏
そういうことだ。一強の首相に「これだけ忠誠を尽くして財務省として一生懸命守っていますよ」というのを見せたい。逆に言うと政権を支持する支持しないに関係なく、一強というもののある種の弊害というものがこういうところに現れる。つまり、役人は暫く政権が続くだろうと。これは逆らわない方がよいと思うと、ものすごく忖度がどんどん広がってしまう。

菅野朋子氏
要するに政権を守ると財務省にとってもメリットがあるということだろう。

羽鳥慎一氏
財務省は政権と距離があったのを縮めたかった。

山口真由氏
財務省としては省益もあるが、この国際情勢が不安定な中で長期安定政権は何物にも代えがたいという思いがあるようだ。

番組出演者は、「忖度されて特例措置が講じられた」という小前提によって導いた「設置趣意書に安倍晋三記念小学院の記載がある」という結論によって「忖度されて特例措置が講じられた」ことを推論しています。このおバカなトークは【循環論証 circular reasoning】と呼ばれるものであり、ワイドショーにおいてはスケイプゴートの悪魔化によく使われています。例えば、「トランプ大統領は悪人だ。」→「悪人だから悪いことばかりしている。」→「悪いことばかりしているトランプ大統領は悪人だ。」という報道の展開を耳にされた方も多いと思います。ワイドショーのデタラメな主張は目を覆うばかりです。

エピローグ

「忖度」のような「他者の意思」を証明することは、【全知全能に訴える論証 appeal to omniscience / amazing familiarig】と呼ばれる誤謬として知られています。また「なかったこと」を証明することは【悪魔の証明 proving non-existence / evidence of absence】と呼ばれる誤謬として知られています。

このような意味で、森友・加計騒動において野党が政府に要求する「官僚による首相への忖度がなかった」ことの証明は、究極の立証不能事案であり、たとえ安倍昭恵氏や加計孝太郎氏が証人喚問に登場したとしても、忖度があったとする主張を立証することが不可能であることに変わりはありません。このような国会質問における時間のムダを容認する原動力となっているのが、不合理なマスメディアの論調と、そのマスメディアに騙され続けている一部大衆による世論であると言えます。この状況を打破するにあたって必要となるのは、大衆が野党の主張の不合理さを認識し、安易に支持を与えないことに尽きると言えます。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。

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