米医療保険企業CEOの年間所得は最高25億円!

昨日、昼食時のセミナーで、デトロイトにある大学の教授の講演を聞いた。まず、デトロイトでは心臓発作による死亡率が全米平均の2倍くらい高く、その背景に高血圧が治療されないままに放置されていることが紹介された。肥満の割合が高く、医療へのアクセスが悪いために、心臓への負荷がかかり、それが、突然の心臓発作へとつながっているようだ。

また、米国では所得上位50%が全医療費の97%程度を使っていて、所得下位50%は3%程度だそうだ。低所得者の医療へのアクセスが如何に悪いかが、この数字から見て取れる。この状況と比べて、日本人は誰でも、いつでも、どこでも等しく医療にアクセスできるのだから、この状況がいかに恵まれているかがよくわかる。しかし、保険制度が、水や空気のように、当然存在していると考えているためか、その有難さがあまり認識されていない。水や空気でも汚染されれば有害なので、注意深く監視されているが、保険制度を維持することへの関心があまりにも低い。

国は診療報酬を削ることで、医療費の増加を抑えようとしているが、高齢化に伴い、医療を必要とする人口が増えているのだから、これでは医療の質の低下につながりかねない。高額医療機器、高額医薬品が増えていることを考えれば、今の診療報酬削減議論はどこから見ても偏ったものである。

デトロイトの話に戻ると、日本では血圧を測る事は日常的に行なわれているのだが、これさえ十分に行われていないようだ。調査を行ったところ、無治療の高血圧症例が相当数見つかったとの事だった。肥満人口の割合も、日本人は9%弱だったが、デトロイトでは30%を越えていた。そして、健康を守っていくというCulture(文化と訳すべきか、習慣と呼ぶべきかわからないが)を育んでいくことが重要と結んだ。

低所得の問題、医療保険制度の問題、教育の問題、それらが複合的に影響しているのだと思う。世界最先端の医療が存在している一方で、医療へのアクセスが収入によって異なっている現実が、真の民主主義なのかどうか、私には疑問だ。そして、最も印象に残ったのが、健康(医療)保険を提供している企業CEOのとほうもない年収だ。講演時にはメモする時間がなかったので、株式公開されている企業CEOの年収がインターネットで見つかった。下記が2016年度のその企業名と年収だ。

Centre  22.0百万ドル
Humana 19.7百万ドル
Aetna  18.7百万ドル
UnitedHealth  17.8百万ドル
Anthem 16.5百万ドル
Cigna 15.3百万ドル
Molina     10.0百万ドル
WellCare 9.3百万ドル

最低でも10億円超、最高が約25億円だ。米国での成功、アメリカンドリームを手に入れることは、お金の評価がすべてなのだろう。大リーグ入りした大谷選手が、大金を手に入れる可能性があったにもかかわらず断ったので、ニューヨークのメディアで叩かれている。人生にはお金で買えないものがある。われわれ日本人はそのようなCultureの中で育ってきたのだ。大谷選手には、是非、日本人として矜持を忘れず、大成功して欲しいと願っている。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。