公民連携を強調するシンガポールのデジタル変革

雑誌『行政&情報システム』の12月号に「シンガポール政府におけるデジタル変革」というインタビュー記事が掲載された。チャン政府CIOの話には学ぶべき点が多かった。

アマゾンで物を買うのは簡単だが役所での書類手続きは面倒くさい。市民は行政サービスにストレスを溜めている。デジタル変革でこれを打破する際に重要なのは民間セクターと公共セクターの両者を巻き込んだエコシステムを作ることだ、とチャン氏は主張する。

彼の言う民間セクターには市民も含まれる。近隣の人々と密接な関係を保ったかつてのコミュニティは崩壊したが、人々はSNSで1000人単位の人につながっている。デジタルが市民同士をつなげる時代なのだ、というのがチャン氏の考え方である。これを応用して、myResponderと呼ばれる事業を始めたそうだ。急病人のもとに救急車が駆け付けるまでの間、近くにいる登録者のスマートフォンに連絡が入り、登録者が応急処置を施す。それで救命率が飛躍的に向上するという。

デジタル変革を進めるチャン氏が障壁と感じたのが「役人」だそうだ。旧来のやり方にこだわりデジタルを理解していない役人たちを教育するのに苦労した。公務員は大きな過ちを犯さない限り解雇されないので現状変更へのモチベーションがない。データの扱いからスタートするのではなく、課題を見極める力を養い、次に課題解決のためにデータを扱うという姿勢を役人に教え、彼は時間をかけて変革を進めてきた。

チャン氏の話はわが国にも役立つ。デジタル化に消極的な官僚をどう変革していくかは共通する問題だからだ。課題を見極めるのがもっとも重要というのは、根拠に基づく政策形成(EBPM)にも共通する考え方であり、政府がEBPM推進に動き出したのはよいことだ。