“アメリカ・ファースト”への挑戦:フォードはメキシコ投資を再開

Mike Mozart/flickr(編集部)

米フォード社はクロスオーバーの電気自動車の生産をメキシコで行うことを決めた。選らばれた場所はクアウティツゥラン・イズカリにあるフォードの工場で、2020年の夏から生産開始を目指しているという。

この決定は12月初旬にメキシコそしてラテンアメリカやスペインで主要記事の一つとして報じられた。また米『New York Times』(12月11日付)のスペイン語版の記事の見出しには「ついに、フォードはメキシコで電気自動車の生産をする」と題して報じられた。

同紙が「ついに、」と見出しにつけた背景には、フォードが今年1月に2018年からメキシコのサン・ルイス・ポトシーで車種フォーカスの生産を計画して生産工場の建設を予定していた。それが、就任したばかりのトランプ大統領の「メキシコで生産した車には高関税をかける」という脅迫の前に、フォードの当時のCEOマーク・フィールズがこの計画を中止するという出来事があったからである。この計画は、中止される8カ月前に決まり、生産工場を建設する寸前だったのである。この進出には16億ドル(1800億円)の投資が見込まれ、2800人の直接雇用そして10000人の間接雇用が予定されていた。

フォードはそれに代わる計画として、ミシガン州の同社のフラットロックの工場に新たに7億ドル(800億円)を投資して、700人を新規雇用してピックアップ車の生産に充てるとした。

これが意味のない投資であるかを証明するかのように、その後、マーク・フィールズは解任された。新たにCEOに就任したジム・ハケットはトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」主義に挑戦するかのように、中国でフォーカスを生産してそれを米国に輸入するという決定を下したのであった。

更に、CEOジム・ハケットは電気自動車の需要がこれから伸びるが、生産コストは高くつき、しかもマージンは少なく、当初の販売量も大きくはない。赤字が生じる可能性があると考えるようになっていた。そこで、そのリスクをより少なくするには労働コストの低いメキシコで生産するのが最適だと考えていた。

メキシコ電子紙『SINEMBARGO』(11月27日付)が報じているように、カナダと米国に比べ、メキシコの労賃は余りにも低く、時間給でカナダが8ドル、米国が7.25ドルに対し、メキシコは0.57ドルという低さなのである。この数値は自動車業界の労働コストの差を示すものではないが、どの業界においても両国の労働コストの差の開きが余りに多く、米国がメキシコからの輸入に高関税を適用したり税金免除をしてもその差は埋まるものではない。これが魅力で、米国の企業経営者はトランプ大統領がメキシコへの米国企業の進出に反対しようとしてもメキシコでの生産は無視出来ないのである。

そこで、フォードは前経営陣が決定していたミシガン州の同社工場ではピックアップ車の生産に充てるということにも修正を加えて、そこでは自動運転車の開発そして生産を決定したのである。そして、当初予定していた700人の新規雇用を850人に増やすことを予定しているという。また、投資も当初の7億ドル(800億円)から9億ドル(10億円)に増加を見込んでいる。

今もNAFTAの交渉は続いている。5回目の交渉が終了している。これまで大きな進展はなく、次の交渉は1月に予定されているが、3月まで継続される可能性は強いという。そうなると、来年7月のメキシコの大統領選挙の前の選挙キャンペーンと併行しての交渉になる。それは大統領選に影響する。それを現メキシコ政府は回避したいと望んでいたが、それは難しくなっている。

一方、トランプ大統領の唯一の関心はメキシコとの貿易赤字を解消させることにある。それ以外には両国の貿易進展への関心は薄いように見える。寧ろ、トランプ大統領はメキシコに対し厳しい条件を提示して、この協定の解消を狙っているようにも見える。

しかし、仮にNAFTAが解消されたとしても、世界貿易機構が提示している規定から判断して両国の関税率は3.5-7%の間を推移して取引が行われるようになるはずである。この関税率はメキシコの労働コストを考慮した場合に、関税を支払ってもメキシコで生産した方が米国のそれよりも依然安価に収まると見られているのである。それをフォードは熟知している。それが、今回のフォードのメキシコでの生産再開を導いたのである。