ロッテ創業者一族の判決:問われる「企業市民」の姿勢

新田 哲史

有罪判決を受けた重光昭夫会長(韓国ロッテサイトより引用)

2年前から続くロッテグループのお家騒動はここまで韓国で横領や背任などを問われる刑事事件へと発展し、昨日(12月22日)、ソウル中央地裁が判決を下したことで大きな区切りを迎えた。

韓国ロッテ会長に猶予判決 95歳の創業者は懲役4年の実刑、長男は無罪(産経新聞)

上記記事の見出しの通り、一族間において判決は明暗をわけた格好だ。ただ、創業者長男の重光宏之(韓国名・辛東主)被告については、“横領”とされた役員報酬の支払いについて社内手続きが適正にされていた経緯などから無罪を有力視する見方は以前からあった。また創業者の重光武雄(韓国名・辛格浩)被告は実刑判決こそ下されたが、高齢であることから収監は見送られる方向であり、2人の判決については、ほぼ想定通りだったともいえる。

最大の焦点は、グループトップで創業者次男の重光昭夫(韓国名・辛東彬)被告に対する判決がどうなるかだった。求刑・懲役10年、罰金1000億ウォンの求刑に対し、判決は懲役1年8月、執行猶予2年。収監が見送られた。聯合ニュースによれば、韓国ロッテの関係者は安堵している模様だ。

韓国ロッテ会長に執行猶予判決 実刑免れ関係者は安堵(聯合ニュース)

執行猶予でもまだ安堵できない

確かにこの記事の通り、実質的には当面のかじ取り役が変わらないとの見方が強い。しかし、まだ一審段階で執行猶予がついたとはいえ、有罪認定された事実は重い。韓国の法制度のことは詳しくないが、これが日本の裁判であれば、取締役が会社法等の違反で有罪判決を受けると欠格事由に相当し、経営を離れざるを得ない。外国の裁判だからといって免責されるというのも社会の理解を得られるか、微妙ではあるのだが。

また、昭夫被告はこの事件とは別に、朴槿恵前大統領の親友、崔順実被告(収賄罪等で公判中)に対する贈賄の罪で在宅起訴されていて、審理は別に行われている。今月14日の公判で、昭夫被告は、懲役4年、追徴金70億ウォンを求刑されており、来年1月26日に予定される判決によっては、経営上の重大局面を迎える可能性がある。

“政治的判断”を感じさせる判決

ただ、昨日の判決を見ていると、いささやか“政治的判断”を加味されたような印象を受ける。昭夫氏が実刑判決を受けてロッテグループの経営を離れてしまうと、一連のお家騒動や、THAAD配備への土地提供による中国での報復などに加え、さらなる混乱に陥りかねない。日本の刑事裁判の常識だと、懲役10年も求刑されるような重大な事件が執行猶予付きの2年弱の懲役になるのは考えづらいが、このあたり、韓国5位の派閥が立ち往生し、韓国経済に悪影響を与えるシナリオを考慮されたのだろうか。

もともと韓国の司法制度は、産経新聞のソウル支局長に対する名誉毀損事件をみても明らかなように、先進国にしては、政治的・裁量的な要素が大きい。

しかし、どちらにせよ、日韓の社会、消費者から厳しい眼差しが注がれることに変わりはない。この先、グループが上場するのであればなおさらだ。朝日新聞チックな表現だが、経営学でも概念化されている「企業市民」としての姿勢が一層問われ続けることになる(「企業市民」について経団連の定義はこちら)。

企業市民として懐疑的な広報対応

そう考えると、以前から気掛かりなのは、これほど社の命運を揺るがす裁判沙汰になっているというのに、ロッテグループは、記者会見や、コーポレートサイトでの見解表明など、業界のリーダークラスの企業ならば通常やるような広報対応に消極的に思えることだ。

マスコミには直接声明文を送っているようだが、日本のロッテの公式サイトのニュースリリースを見ると(23日未明時点)、最新情報に「お詫びとおしらせ」とあるから、判決に関して何か書いてあるのかと思いきや、2か月も前のもので、アイスクリームの「雪見だいふく」への異物混入事案に関するものだった。あとは大半は商品情報ばかりだ。

念のため、韓国ロッテのコーポレートサイトのほうもアクセスしてみたが(23日未明時点)、経営戦略やCSRなどの情報ばかりで、判決に関する見解表明は半日経ってもなされていなかった。

グループ中枢広報の速報体制が追いついていないという見方もできるが、韓国5位の財閥であり、日本では菓子市場のリーディングカンパニーであるのだから、広報体制を増強することは容易に思える。上場を視野に、企業市民として社会に開かれたコーポレートガバナンスをやる気があるのかどうか、心もとない。

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なお個人的にもうひとつ気になるのは、昭夫氏はプロ野球千葉ロッテマリーンズの実質的なオーナーでもあることだ(オーナー代行)。以前も書いたように、プロ野球界の憲法である野球協約では、オーナーのコンプライアンス問題に関する不備がある。このあたりのことは、また別の機会にあらためて書くつもりだ。