カタルーニャ州議会選挙の結果は企業に暗い陰を投じている

プッチェモン前州知事(http://www.abc.es/より引用)

1992年、バルセロナ・オリンピックの為にインフラの整備を開始して、それから25年が経過したバルセロナは世界を代表する都市の一つに発展した。特に、観光面ではガウディーの作品は世界から注目を集めて観光者のバルセロナ訪問を魅了するようになっている。

しかし、カタルーニャの財政問題が要因となって、「独立すれば財政問題は解決する」と政権に就いているカタルーニャのナショナリズム政党「集中と統一(CiU)」が考えるようになっていた。

カタルーニャはスペインにあるが、歴史的には嘗て独立した自治領であったということが彼らをしてカタルーニャ共和国として建国することを望むようになっていた。そうすれば、独立採算が取れて財政赤字も解消され、より豊かな生活を享受できると考えるようになっていた。それを主導していたのは特にカタルーニャの新興ブルジョア層であった。そしてその政党CiUがカタルーニャの政権を民主化以降から現在まで担って来たのであった。

カタルーニャはスペインのGDPの20%を貢献しているのに、スペイン中央政府から付与される交付金はその割合に比べ少なすぎるとCiUは考えるようになっていた。その一方では、GDPにおいてカタルーニャよりも貢献度の低い自治州にはカタルーニャよりも多くの交付金が付与されている。この不公平を是正するにはカタルーニャが独立することであるという考えがナショナリズム政党の間で次第に強くなって行ったのである。

その独立への動きをより具体的に示したのが、「プロセス」と呼ばれるカタルーニャの独立の為にやるべきロードマップであった。それを推進したのがアルスル・マス前州知事だ。。

スペイン中央政府の方はカタルーニャ政府の独立への動きを懸念はしていたが、傍観している風でもあった。スペイン政府は内心、カタルーニャ政府が独立への運動をあらゆる方面で具体的な計画に基づいて実行に移すとは想像しなかったのである。

ところが、カタルーニャ政府は議会で独立を支持する3党が連携して自治憲章を否定し、独立法を成立させ、挙句には独立を問う住民投票まで実施したのだ。

その段に及んでスペイン政府はカタルーニャ政府が行っている一連の動きは国家の統一を妨げるものだとして、それにブレーキを掛けるべく憲法155条を発動したのであった。155条というのは国家の統一を乱す行動を自治政府が行った場合に、スペイン政府はその自治州の機能を停止し、州政府閣僚を解任できることが認められていることを示す条項なのだ。

州政府の独立への動きに対し、カタルーニャの企業は強い不安を抱くようになっていた。その理由は、独立すればカタルーニャはEUからの離脱を余儀なくさせられて、単一市場へアクセスが遮断される。そして、ユーロ通貨は流通しなくなる。そのような状態が運命づけられている独立国家にカタルーニャ企業は全く魅力を感じていない。それは企業にとっては自殺行為だと考えていた。また外国企業もEU圏に存在しないカタルーニャへの投資は意味がないと考えていた。

残念なのはこのような事態に成ることを承知の上で、独立を成し遂げようとするカタルーニャ政府とそれを支える政治家が市民に「独立すれば現在より豊かな生活を享受できる」と説いて回ったのである。学校教育にもカタルーニャ共和国の存在の意義を生徒に教えるまでの徹底さだ。

遂に、10月1日の住民投票で独立賛成が反対を上回ったとして独立宣言をしたのが発端となって、カタルーニャの企業は本社を州外に移転させる動きが活発になった。10月2日から現在まで凡そ3400社がカタルーニャから本社をマドリードやバレンシアなどに移したのである。スペインの株価を代表する上場企業35社の内で、カタルーニャに本社を置いていた企業は1社を残して全て州外に本社を移転させた。

カタルーニャ企業家連合のジュセップ・ボウ会長は「プロセスが始まってから本社を移転した企業は3400社ではない、5000社以上ある」と指摘している。即ち、プロセスが始まったのは2012年だった。

また12月20日には各紙が一斉に今年第3四半期のカタルーニャへの外国からの投資は昨年同期と比較して75%減少していることを報じたのである。昨年の同四半期は20億7100万ユーロ(2700億円)であったのが、今年同期5億1900万ユーロ(670億円)まで減少した。その一方で、マドリード、バレンシア、バスクなどでは昨年同期に比外国からの投資は増加している。バレンシアはカタルーニャの隣の州ということから昨年同期6700万ユーロ(87億円)だったのが、今年同期5億1900万ユーロ(675億円)に急増した。

電子紙『OKDIARIO』(12月19日付)は「外国企業はカタルーニャに信頼をよせていない。ポルトガルかフランス南部に投資するの望んでいる」と報じた。ポルトガルは企業誘致に有利な税的条件を提示しており、またフランス南部はカタルーニャに隣接している。

今月21日の州議会選挙はこのような背景のある中での選挙だった。

1999年から州議会選挙で起きている現象が今回も案の定起きた。独立支持派と独立反対派の有権者の票が完全に二分化した選挙であった。独立賛成票48%に対し、独立反対票51%。独立反対票が常に独立支持票を僅かに上回る現象が繰り替えさせてきた。

しかし、議席数で見ると、独立支持派の議席総数は70議席と、反対派議席の65議席を上回っている。この理由は、反対票が集中しているのは有権者の多いバルセロナ県で、それ以外の3県は独立支持者が多いからである。バルセロナ県では議員として選出されるには他3県と比較して2倍以上の票が必要だ。

州議会の定員は135議席。即ち、70議席を獲得した独立支持派の3党が連携して解任されたプッチェモン前州知事を新ためて州知事として再選できるのである。しかし、3党が連携してプッチェモンを州知事に推すか疑問もある。自治機能がスペイン政府によって停止させられて以降、3党の独立への歩みに意見の相違が顕著になっているからだ。

しかも、プッチェモンは今もベルギーに逃亡している。他に4人の前閣僚も同行している。また副州知事だったジュンケラスは逃亡せずにスペインに留まり、現在反逆罪などの罪状でマドリードの刑務所に収監されている。同じく、彼と一緒に一人の前閣僚そしてもうひとり国民議会の前会長で今回の選挙で当選した人物も収監されている。

即ち、ベルギーに逃亡している5名とマドリードで収監されている3名を合わせた8名の議員は議員としての認証は代理人が受け取ることが出来るが、仮に州知事の選出の為の議会への出席はできない。そうなると、70議席から8議席が減って、62議席となってしまい、過半数の議席を割ってしまう。よって、2回目の投票で賛成議席多数となって州知事に選出されることになるであろう。しかし、プッチェモンがスペインに一旦足を踏み入れると副州知事と同様に反逆罪などの罪状で逮捕されることになっている。

州知事の任命が遅れる可能性のある一方で、独立支持派が勝利したことはカタルーニャの企業によっては暗いニュースとなっている。独立支持派が政権に就いてまた独立を主張するようになれば、これまで以上の数で企業が州外に本社を移転させるのは間違いないとされている。それは将来のカタルーニャ経済の発展には非常に暗い陰を投じることになる。同様に、外国からのカタルーニャへの投資はこれまで以上に魅力がなくなってしまう。

多くの企業家が期待していたのは、独立反対派が勝利して連立政権が誕生することをであった。その中でも政党シウダダンスは政党創設から僅か11年で3議席から始めて今回の選挙で12議席を増やして37議席を獲得して議席数では第一党になった。アルベルト・リベラが27歳の時に創設した政党である。カタルーニャでナショナリズム政党ではない政党が第一党になったのは初めてである。しかも、彼らは「スペイン人であり、またカタラン人である」という信条に基づいた中道右派でリベラルな政治を目標にしている。カタルーニャで人口がトップ10の全ての都市においてシウダダンスは得票率でトップだった。

しかし、シウダダンス以外の独立反対派の政党は議席の獲得が伸び悩み、スペイン政府与党の国民党に至っては11議席から僅か3議席に転落した。議席が減った主な理由は、これまで国民党に投票していたのが、今回はシウダダンスに票が流れたからだ。

1月23日までに州議会の招集が予定されている。そして州知事の選任の為の最初の投票が2月6日に予定されている。しかし、州知事の任命が長引くと、再選挙の実施の可能性もある。実際、アナリストの間では来年4月か5月の選挙が予測されている。

カタルーニャ経済はこれから更に後退を余儀なくさせられて行く可能性が強い。