【映画評】彼女が目覚めるその日まで

2017年12月26日 06:00

©2016 ON FIRE PRODUCTIONS INC.

憧れのNYで働く21歳の若手新聞記者スザンナは、公私ともに充実した毎日を送っていた。だが突如、物忘れがひどくなり、仕事でも大失態、精神状態も極度に不安定になる。幻覚、幻聴、不眠、悪態に痙攣など、激しい発作を繰り返すが、病院で検査をしても原因が分からず、スザンナは精神病院に送られそうになる。両親や恋人のスティーブは何かが違うと疑問を持ち、医師に訴え続けるが…。

原因不明の病に苦しんだ女性記者の壮絶な闘病と、彼女を支えた家族や恋人の絆を描く「彼女が目覚めるその日まで」。描かれる病気の名前は、抗NMDA受容体脳炎。急性脳炎の一種だそうだ。ニューヨーク・ポスト紙で働くスザンナ・キャハランがこの原因不明の難病にかかり、実態を解明するまでは、精神病や悪魔憑きだと考えられ、ホラー映画の傑作「エクソシスト」の元ネタになった病気だというから、興味深い題材である。知的で明るかったスザンナが、極端なそうとうつを繰り返し、人間性が崩壊したかのような悪態をついて、周囲を困惑させる様は、まるでドキュメンタリーのようにリアルで痛々しい。

闘病の実態とヒロインを支え続けた家族・恋人の姿を事実に基づいて追っていくので、大事件が起こるわけではないドラマは少々盛り上がりに欠けるのは事実。だが過剰なお涙頂戴や感動の押し売りをしない演出は、むしろ好印象を持った。家族や恋人が、精神病なんかじゃない、何かが違うと信じ続け、あきらめずに闘う信念は、愛ゆえだろう。ミュージシャンの卵で何だか頼りなく見えた恋人のスティーブンが、意外なほどの粘り強さと思いやりでスザンナを支え続けるのが頼もしい。スティーブンのスザンナへの愛情に共感できるため、彼が言う何気ない一言が事態を好転させるのも納得だ。壮絶な闘病の末についに人生を取り戻したスザンナを演じるクロエ・グレース・モレッツが熱演だが、周囲の人々の心情も丁寧に描かれている。何より、日本でも年間に1000人が発症しているというこの抗NMDA受容体脳炎の認知に、本作が貢献したことを評価したい。
【60点】
(原題「BRAIN ON FIRE」)
(カナダ、アイルランド/ジェラルド・バレット監督/クロエ・グレース・モレッツ、トーマス・マン、キャリー=アン・モス、他)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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