「法王」に残された時間はあるか

2017年12月27日 11:30

2017年もあと数日を残す余りとなった。今年10月は、マルチン・ルター(1483~1546年)が当時のローマ・カトリック教会の腐敗を糾弾し、「イエスのみ言葉だけに従う」といった信仰義認を提示し、贖宥行為の濫用を批判した「95カ条の論題」を発表して500年目だった。ルターの宗教改革が欧州のキリスト教会、そして世界の教会に大きな衝撃を投じたことは周知の事実だ。ルターの出身国ドイツではローマ・カトリック教会とプロテスタント教会がほぼ拮抗している。ルターの登場は世界のキリスト教会を新旧両教会に更に分裂させる切っ掛けともなったわけだ。

▲バチカンのサン・ピエトロ広場でのクリスマス礼拝(2017年12月25日、オーストリア国営放送から)

▲バチカンのサン・ピエトロ広場でのクリスマス礼拝(2017年12月25日、オーストリア国営放送から)

ところで、ここではルターの宗教改革を振り返るのが目的ではない。新年(2018年)はローマ法王フランシスコが教会の刷新に本格的に取り組む年となりそうだというテーマだ。フランシスコ法王は来年、世界12億人以上を擁するローマ・カトリック教会の改革者として、これまで以上に強い言動が予想されるのだ。

ドイツ出身のベネディクト16世が生前退位した後、アルゼンチン出身のベルゴリオ枢機卿が2013年3月、ペテロの後継者、第266代の法王に選出されて4年が過ぎてしまった。今月17日で81歳となったフランシスコ法王にはもはやあまり時間がない。
フランシス法王はコンクラーベ(法王選出会)で激しくカトリック教会の腐敗、堕落を糾弾し、その爆弾発言が枢機卿たちの心をとらえ、法王に選出された経緯がある。フランシスコ法王の使命はバチカン法王庁の刷新であり、聖職者の未成年者への性的虐待事件などで揺れる教会の信頼性回復、抜本的改革にあることは本人も自覚しているはずだ。歴代初めて貧者の聖者、アッシジのフランチェスコの名前を法王名に付けたフランシスコ法王は教会の改革者の道を歩みだしたわけだ。

フランシスコ法王の教会刷新はルターの宗教改革に匹敵するかもしれない。すなわち、多くの抵抗に直面するという意味でだ。フランシスコ法王がここにきて焦ってきているのを感じる。時間との戦いだ。もっと現実的に表現すれば、フランシスコ法王の健康問題だ。10年の時間はもはや残っていないだろう。最大5年の時間かもしれない。膝を悪くし、手助けがなくては立ち上がるのが厳しいとしても、まだ動けるうちに、教会の改革に取り組まなればならないからだ。

フランシスコ法王は今月21日、枢機卿や司教たちが参席する場ではっきりと警告を発している。

「この場に教会の刷新を阻止するキャリア主義者、無価値、利己主義者、そして不従順者がいる。どれだけ忍耐と献身が必要なのか。ローマ(バチカン法王庁)で改革する仕事はエジプトのスフィンクスを歯ブラシで磨くのと同じだ」

フランシスコ法王は2014年でも同じようにバチカンの高位聖職者に向かって「法王庁病に取りつかれた者よ、がんの腫瘍だ。最終的に教会ばかりか自分をも破壊させる」と警告を発したことがあった。今年はそれに匹敵する内容だが、それより直接的であり、攻撃的だ。そしてローマ法王への忠誠を強調している点が新しい。換言すれば、バチカンの改革に乗り出す法王に対する批判、不従順が顕著となってきたことに対するペテロの後継者の必死の叫び声といえるだろう(「バチカンで今、何が起きているか」2017年7月3日参考)。

ちなみに、ヨハネ・パウロ2世時代(1978~2005年)、ローマ法王は絶対に誤らないという「法王不可謬説」があった。ローマ法王の言動を批判する聖職者や信者は破門されてきた歴史があるが、フランシスコ法王時代に入り、ローマ法王の神学的過ちなどを堂々と指摘する高位聖職者が増えてきているのだ。

例えば、フランシスコ法王が2016年4月8日、婚姻と家庭に関する法王文書「愛の喜び」(Amoris laetitia)を発表した時だ。256頁に及ぶ同文書はバチカンが2014年10月と15年10月の2回の世界代表司教会議(シノドス)で協議してきた内容を土台に、法王が家庭牧会のためにまとめた文書だ。その中で「離婚・再婚者への聖体拝領問題」について、法王は、「個々の状況は複雑だ。それらの事情を配慮して決定すべきだ」と述べ、最終決定を下すことを避け、現場の司教に聖体拝領を許すかどうかの判断を委ねた。

法王文書の内容が明らかになると、4人の枢機卿は昨年9月、フランシスコ法王に一通の書簡を送り、離婚・再婚者への聖体拝領問題について、「法王文書の内容については、神学者、司教たち、信者の間で矛盾する解釈が生まれてきている」と苦情を述べ、別のところでは、「法王が発表した文書とそれに関連した発言は婚姻、道徳、聖体拝領に対する異端的な立場だ。フランシスコ法王の思想には道徳的真理を相対化するモダン主義とマルティン・ルター(異端者)の影響がある」といった内容の批判すら聞かれた(「フランシスコ法王は異端者?」2017年11月2日参考)。

フランシスコ法王は、官僚主義に流れ、古い教義に固守した教会の体質を刷新できるか、法王選出5年目を迎える2018年は大きな正念場を迎えることになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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