厳寒のシカゴで迎える6度目の元旦

新年まであと2時間と少し。今現在、外気温はマイナス16度、明日の朝はマイナス20度まで下がる極寒の中で、新年を迎えつつある。「寒い」の一言しかない。予報によると、1月5日まで最高気温がマイナス10度を下回る。連日、過去最低気温を更新しそうで、6年間で最も寒い冬だ。瞬間的にこれより低い温度の時はあったが、10日以上に渡ってこのような気温が続いたことはない。身も心も引き締まると言えば格好いいだろうが、身は縮みあがり、心は折れそうになる。外を歩けば、心臓発作に見舞われそうだ。

こんな状況でも、前を向いて進まなければ思う精神的な支えになっているのは、私を励ましたり、頼りにしてくれる患者さんや家族の声だ。2週間ほど前、二人の十代のがん患者さんの家族からメールをいただいた。ちょうど日本に滞在していた時だったことと、あまりにも差し迫った様子のお父様のメールに電話を差し上げて話をさせていただいた。今の私の立場で、直接何かができるわけではないが、希望を提供する医師を紹介することはできるし、私はその希望が希望で終わることなく、がんの治療法として科学的に証明され、患者さんに元気を取り戻せることができると信じている。生きる希望があればこそ、明日の自分のために頑張ることができるのだ。私が信じているだけでは、「鰯の頭も信心から」程度だが、2018年には周辺の協力を得て、科学的に攻めていきたい。治験で効果が実証されていない抗がん剤療法を次々と提供するのも「鰯の頭も信心から」に近いと思うのだが。 

6年前の元旦、私はシカゴに移ることで、「一から出直し」の気持ちだった。4月1日からシカゴ大学で日米の差を自分の目で確かめ、米国からの情報発信によって日本のがん医療を変えたいと願っていた。そして、この6年弱の間、色々な体験をし、がん医療の在り方も大きく変わった。がんの第4の医療としての免疫療法の確立、オバマ前大統領による「プレシジョン医療」「ムーンショット計画」の推進があった。今や、がん医療の現場でのゲノム情報の利用・さまざまな免疫療法の応用は止められない。

しかし、日本の現状は危機的だ。ゲノム解析技術の進歩と新たな免疫療法の試みから大きく取り残されている。今頃、遺伝子パネルを利用したゲノム医療が最先端と言っているようでは、米国から周回遅れでは済まされない。すでに、全エキソン解析・全ゲノム解析を視野に入れなくてどうするのか?また、免疫療法を「でたらめな治療法」と断定的に言っているようでは、科学的な素養の欠落をさらけ出しているようなものだ。 

「標準療法が尽きれば、座して死を待て」で医療と呼べるのか、恥ずかしくないのかと糺したい。ゲノム科学・免疫学などの進歩も理解できず、「治験で証明されたものだけをエビデンス」としか認めないようでは、医療従事者として失格である。と批判しているだけで何もしなければ、私自身が医療従事者として失格となってしまう。20年以上前から提言してきたオーダーメイド医療(プレシジョン医療)が、現実となっているのだ。がん医療の大変革を誰も挑戦しないのであれば、自分でするしかない。行動するしかない。がん患者さんや家族にもっと身近に寄り添って、笑顔を取り戻すために役立ちたい。 

2018年は第2の人生の旅立ちだ!

PS:年末に携帯電話が故障して、電話の連絡先もLINEの登録アドレスもすべて失ってしまった。バックアップを取ろうと思いながらも、先送りにしていたために、お手上げだ。俗世界から離れて過ごすのも一興かなと思いもしたが、やはり不便だ。知人の皆様、申し訳ありませんが、大学宛てのメールで連絡先をお知らせください。 

20171231日の夕焼け

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編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。