「見た目が9割?」いやいや「雰囲気も9割!」です!

尾藤 克之

マーケティングほどまがいモノが多い領域はない。マーケティングは顧客と企業を信用を結びつけるための手法である。だから、本来なら「ウソ」をつくことはなじまない。マーケティングを成功させたいなら、正しい情報をわかりやすく伝えなければいけない。そこに「ウソ」があれば、最終的には信用を無くしてしまう。

今回紹介するのは、『買う理由は雰囲気が9割』(あさ出版)。著者は、福田晃一さん。インフルエンサーマーケティングが専門のようである。イマドキのモノの売れ方、SNS、ネットメディアの効果的な活用法、消費者に今、何が起きているのか、インフルエンサーにPRを依頼するコツなどについて語られている。

まがいモノが多いマーケティング

そういえば、昨年末くらいから、Facebookにうさん臭い、マーケティング広告が表示されるようになった。いわゆる、「プロダクト○○ンチ」の詐欺まがい商法。最近、あきれるくらいこのたぐいの手法が増えてきた。厳密にはグレー商品に分類され、違法とは決め付けられないものもあるが、一般的には信用を落とすから好ましいとはいえない。

「パチンコで誰でも簡単に1日で30万円をかせぐ方法」という商材があったとする。商材には100ページで10万円の価格が設定され成果物をPDFとする。商材は複製可能だからコストは掛からない。しかし、これを売るためのサイトを立ち上げてもあやしいから商品は売れない。そこで、売り手はグレーゾーンぎりぎりで勝負を仕掛けてくる。

最初に、講座のうち10ページをいまなら無償提供すると見込み客を集めて、次の10ページを知りたければ、1万円。次の10ページを知りたければ1万円、全ての情報を知りたければ10万円とすれば、あおられた人が買わないとは限らない。最終的に得られる情報にもは再現性がない。このような手法に騙される顧客はダボハゼと呼ばれている。

失礼ながら、新しいマーケティング手法と聞いたとき「またか!」と思ってしまった。インフルエンサーマーケティングという言葉も知らなかった。ところが、想像していたより理論的で体系的にもしっかりしていることが理解できた。決して手法自体に目新しさは無いが、ネットメディアやSNSの活用方法は網羅されていてさらに汎用性が高い。

インフルエンサーに選ばれるには

福田さんは、「これ、インスタグラムで流行りますか?」と質問されることが多いそうだ。ところが、PRしたいモノとインスタグラムで流行るかどうかは必ずしもイコールではない。この指摘は、過去にブームになった口コミマーケティングに近い。口コミをねらって意識的に情報を投下するが、口コミになり大ヒットにつながっという話はあまり聞かない。

「これは、インフルエンサーが、このモノに興味を持ってくれるかどうか、心に響くかどうかが指標になります。では、インフルエンサーに響くモノとはどんなモノでしょうか?それは次の2つです。『商品としてよいモノ、面白いモノ』『投稿するうえで、制約なく自由に表現することができる状態にあるモノ』になります。」(福田さん)

「難しいのが後者です。よいモノができれば、企業が自分で語りたいと思うのは当然です。これだけモノやサービスがあふれる時代。こだわりやバックストーリーがなければ、淘汰されしまいかねません。しかし思いが強すぎると嫌がられます。」(同)

インフルエンサーは自分の言葉で、フォロワーたちに語りたいものだ。自分自身で考えて表現しているから、ユーザーから大きな信頼を得て共感を獲得している。

「表現や創造性に余地があるからこそ、生き生きと効果的なPRを投稿できます。いいモノがあると同時に、彼らが表現する自由な関係、環境が必要です。また、インフルエンサーに、すべておんぶにだっこでいいわけではありません。共にやっていこうというスタンスで一緒にブランディングプランを作っていく姿勢も大切です。」(福田さん)

人は自分で選びたいことを知る

これらを整理していくと、ソーシャルメディアのつかい方を考える際、必要なことは「売れそうな雰囲気」「売りたい雰囲気」を醸成することにありそうだ。商品が顧客にわたり、顧客がそれを評価する以上、商品は企業だけのものではなくなる。Consumering(消費促進)と考えればわかりやすい。

「以前、婚活パーティに参加していた知人男性に聞いた話です。『この人はあなたにぴったりですよ』とエージェントから紹介を受けることが多いそうです。ところが、紹介してほしい気持ちもあるものの、『街角でバッタリと出会う』ような出会いが欲しいというのが、参加者の気持ちなのだそうです。これは人間らしい矛盾です。」(福田さん)

つまり、企業は与えるのではなく、「消費者と商品が自由に出会う場を作る」のがソーシャルメディアで売れる雰囲気を作り出すコツともいえよう。出会う場所だけ用意し、消費者が「自分で選んだ」と納得できるような環境が理想的ということになる。

尾藤克之
コラムニスト