空き家問題は「善意」だけでは解決しない

高幡 和也

増え続ける空き家が社会問題となって久しい。総務省の住宅・土地統計調査によると2013年時点で全国の空き家は約820万戸である。少子高齢化と人口減少を背景に、空き家数はさらに増えていくだろう。

空き家の発生による問題は多様だ。そしてそれらの問題解消をさらに困難にしているのは、空き家の種類のうち「賃貸又は売却の予定がなく、別荘等でもない長期不在の住宅や取り壊し予定の住宅」の空き家である。※以下「その他の住宅」

この種類の空き家は全国に318万戸あり、平成5年と比べ倍増(2.1倍)している。それに比べ、賃貸用又は売却用の空き家増加率は減少していることから、空き家問題とは「その他の住宅」の空き家増加とその解消の難しさを主に指しているものだと分かる

この種類の空き家に対して国や各自治体も様々な方法で取り組んでいる。

2015年からは空家等対策の推進に関する特別措置法の施行に伴い「特定空家等に対する措置等」が取られている。これには空き家の強制撤去等の「財産権の制約」を伴う行為も含まれており、このように財産権に踏み込んだ施策からも空き家問題がいかに深刻であるかを窺い知ることができる。

これまで空き家問題の対策としてきたのは主に、空き家の徐却(取り壊し)や利活用(改修、空き家バンクへの登録等)をその空き家の所有者に促すことで現状の解消を図るというものだ

しかし、本年1月1日以降、空き家の所有者には上記以外に第三の選択肢が加わることになるかもしれない。

国土交通省は「空家等の売買又は交換の媒介における特例」を告示し、本年1月1日に施行された。
※2017年12月8日国土交通省告示第1155号、国土交通省HP(www.mlit.go.jp)参照

これは、空き家等の流通を円滑にするために、400万円以下の低廉な空き家等の売買や交換の媒介、代理に際し、宅建業者が受領できる現行の報酬上限額に加えて、当該現地調査等に要する費用相当額を合計した金額18万円(税別)を上限に受領できるとしたものだ。

ただ、これに関してはあまり効果が期待できないという意見も多い。

以下に例を挙げてみる。

300万円の空き家を売買した場合、宅建業者が受領できるのは現行報酬上限で14万円(税別)である。新たな規定ではこの報酬上限が調査費を含めて18万円(税別)まで引き上げられる。確かに、この数字だけを見れば大規模な引き上げ額であるとは言えないし、しかもこの報酬規定に適用されるのは400万円以下の空き家等が対象だということを考えれば、多くの空き家を抱えた大都市圏を見据えた政策とは言えないだろうこれがこの施策の効果が限定的だろうと主張する意見のひとつだ。

「しかし」、である。そもそも空き家問題とは前述したように「その他の住宅」の空き家がその主たる対象なのだ。そして、平成25年度住宅・土地統計調査によると、空き家総戸数の中で「その他の住宅」の空き家の割合が46%という高水準なのは3大都市圏「以外」なのだ。※ちなみに3大都市圏での「その他の住宅」の空き家割合は31%である。

つまり今回の宅建業者への報酬引き上げは元々3大都市圏以外の「その他の住宅」の空き家問題解消にその軸足を置いた施策であると言える。

ネット上には様々な不動産検索サイトがある。いくつかの検索サイトで3大都市圏以外の「400万円以外の住宅」を検索してみたがその件数はかなり少ないのが現状だ。今回の宅建業者の報酬引き上げによって、この件数が増えていくかどうか今後の動向に注視したい。

国や市区町村が取り組む施策だけでは空き家解消の効果は限定的だ。また、今回の報酬額上限の引き上げがどこまでその趣旨どおりに機能するかは分からない。ただ、これがきっかけとなり民間事業者が新しいビジネスモデルを造り出す事に期待したい。

空き家問題は社会の「善意」だけでは解決しない。空き家の解消には「ビジネス」としての民間事業者の介入が必要不可欠なのだ。

高幡 和也 宅地建物取引士

※参考資料 総務省「平成25年度住宅・土地統計調査」、国土交通省「H29.6.27空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」