周囲を欺くための“形式婚”はどこまで有効か?

昨年人気になったドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」では、主人公の森山みくりが、(田舎に行くのを嫌がって)周囲には津崎と結婚したフリをするというドラマでした。

婚姻届けを提出していないので、ドラマでは「事実婚」となっていました。法実務的な「事実婚」とは、実質的には完全な婚姻生活を営んでいるのに、夫婦として籍を入れていない状態を指します。

戸籍上の妻との離婚が成立しないまま、何十年も特定の女性と夫婦同然の暮らしをしているようなケースです。

そういう意味では、実質が「雇用関係」であった「逃げ恥」のケースを、「事実婚」と呼ぶのは誤解を招くかもしれませんね。

周囲の目を欺くために本当に籍を入れて形式上夫婦となるパターンは、映画やドラマで多用されるパターンです。

スパイとして潜入するために形式上夫婦になってしまう作品もあったような覚えがあります。

このように、当事者間では夫婦になるつもりはないのに、形式だけ夫婦となることを「形式結婚」と称する人もいます。

最高裁昭和44年10月31日判決は、「当事者間に婚姻する意思のない場合、その婚姻は無効である」とし、婚姻する意思とは「単に婚姻届けを提出する意思」だけでは足らず「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」と判断しました。

ですから、在留者資格を得るためだけの婚姻や配偶者手当を受けるためだけの婚姻は、実質意思がないとして無効とされます。

婚姻が無効になるだけでなく、婚姻意思がないのにあると装って婚姻届けを提出して戸籍を作成させたとして、電磁的公正証書原本不実記録供用罪として刑事処罰の対象となります。

「偽装結婚をした容疑で警視庁が〇〇らを逮捕」というニュースがよく流されるのは、婚姻意思のない婚姻届け出が、この刑事罰に違反するからです。

問題となるのは、最高裁判例の説く「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定」とは何かということです。家族関係が多様化した今日、その認定は極めて困難になっています。同居して生活費を分担する意思があれば、実質的な婚姻意思があると解するのが一般的です。

しかし、性的関係は一切持たないという特約が当事者間にあった場合はどうなるのでしょう?
逆に、別居して経済的にそれぞれが独立していても、愛情や信頼に基づく関係が双方にあれば婚姻意思があると解釈すべきでしょう。当事者双方が仕事の関係で別々の地域に住んでいることは現実にも多々あるのですから。

個人的には、婚姻制度を悪用して国籍を取得したり配偶者手当を騙し取る輩を取り締まる目的でしか、最高裁の説いた「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」は意味をなくしているように思えます。

そうそう、最高裁の事案は、生まれた子供に嫡出子としての地位を与える目的のみで婚姻届けを提出した事案でした。子供の出生が昭和32年(1957年)と「三丁目の夕日」の時代で、非嫡出子は社会的に大きな差別に晒されていました。「せめて生まれた子供だけは籍に入れてやってほしい」と懇願されたのでしょう。

随分是正されたとはいえ、今なお残る非嫡出子に対する公的な差別(戸籍の記載など)。
一刻も早く是正すべきだと考えます。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2019年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。