【映画評】キングスマン:ゴールデン・サークル

渡 まち子

©20世紀フォックス

ロンドンの高級スーツ店を隠れみのにしたスパイ機関“キングスマン”の拠点が、世界の麻薬市場を制覇する謎の敵“ゴールデン・サークル”の攻撃により壊滅してしまう。生き残ったのは、2年前にスカウトされて腕を磨いた若手スパイのエグジーと、教官でありメカ担当のマーリンだけだった。二人は敵を倒すため、アメリカにある同盟組織の“ステイツマン”の協力を求めてケンタッキーへ向かう。コテコテのアメリカ文化にとまどいつつ、エグジーらはステイツマンのメンバーたちと協力しながらゴールデン・サークルの陰謀に立ち向かうが…。

国家に所属しない粋なスパイ組織キングスマンの活躍を描いて大ヒットを記録したスパイ・アクションの続編「キングスマン:ゴールデン・サークル」。演技派コリン・ファースがアクションができるとは!という嬉しい驚きを提供してくれた前作が予想以上のヒットとなり、調子に乗ってしまった(?)この続編は、荒唐無稽な演出もキレ味も、大胆にスケールアップしている。アメリカのステイツマンにビックスターを揃えながら、無駄使いに等しい軽い扱いをするのは、第3作を見越してのことだろうか。その分、光っているのは50年代カルチャーに傾倒する麻薬王ポピーを演じるジュリアン・ムーアの怪演だ。エレガントなサイコパスという矛盾がブラックな笑いを誘ってくれる。

破天荒なアクションは健在(©20世紀フォックス)

まるで古き良き時代の「007」シリーズを見ているかのような破天荒な展開ながら、カーチェイスや雪山でのハードなアクションなど、スペクタクルシーンの迫力には目を見張る。指名手配で母国に戻れないポピーがカンボジアのジャングルの奥地に作ったカラフルな50年代風のポピー・ランド、そこに囚われている大スター、エルトン・ジョン(本人役)が、せりふはほぼファックのみなのに、意外に大活躍するなど、狂気に近い遊び心がいっぱいで、前作で死んだはずのハリーのビックリの扱いにも驚かなくなる。しかし今回一番グッときたのは、マーク・ストロング演じるマーリンが歌う「カントリー・ロード」だ。最近なぜか映画の中でよく使われるこのカントリー・ソングのテーマは、故郷への愛。命懸けの戦いの中で腹の底から歌いあげる名曲の切なさに、思わず涙ぐんでしまった。型破りでハチャメチャな中に、愛する場所から遠く離れた人々のノスタルジーを織り込んだ点がニクい。なかなかスミに置けない続編だ。
【70点】
(原題「KINGSMAN: THE GOLDEN CIRCLE」)
(イギリス/マシュー・ヴォーン監督/コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、タロン・エガートン、他)
(悪ノリ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。