中国人学生の考える 「望ましいAI」⑥完

2018年01月12日 11:30

昨日、今学期の担当授業が終わった。これから2週間、大学はテスト期間を迎え、その後、春節を含む冬休みに入る。昨年秋、中国共産党の第19回全国代表大会が開かれ、習近平政権の2期目がスタートしたばかりだが、各大学とも、予算の獲得や高い格付けを得る必要から、競って習近平思想の研究に力を入れている。

だが、それは表向きのジェスチャーに過ぎない。実際はもっと過酷な競争にさらされている。国家が重視する最先端技術の開発や国家戦略に沿った研究では、世界ランキング入りの研究レベルが求められる。教師の査定も「工作量(仕事量)」として数量化され、厳しくチェックを受ける。目立った業績のない学部はあっさり統廃合される。

こうしたプレッシャーが、世界でも有名な論文の盗作を生んでいる。だが、倫理面ばかりに目を向け、大きな背景を見失うと、ただ「ダメな国」を笑い飛ばすだけで終わってしまう。国全体が猛烈な勢いで人工知能(AI)やロボットの開発に取り組んでいる事実を軽視してはならない。

私が籍を置くジャーナリズム・コミュニケーション学部は、他大学の同種学部と同様、新聞やテレビの衰退とニューメディアの隆盛によって、大きな曲がり角に立たされている。本来の記者養成という目的は薄れ、時代の潮流に合致して多様な人材の育成が急務だ。

その要請にかなうように、私は担当する『現代メディア・テーマ研究』で4か月間、もっぱらAIを主要テーマにした。インターネットはもはやPCや携帯電話から解き放たれ、あらゆるモノに入り込んでいる。それにつれ、メッセージを媒介するメディアの概念も、新聞とネットといった既成の枠を飛び越えている。人間を主人公とする社会に揺さぶりをかけるAIの出現を切り口に、もう一度身の回りの生活を見直しながら、自分とは何か、人とは何か、を問い直そうと考えた。

クラスの学生は3、4年の36人。教室では、AIの基本的な研究から発展の歴史、また、中国でのAI開発の現状や問題点、さらには人とAIとの共存について、学生の自主発表を中心にしながら議論を深めた。現在進行で進む最先端のテーマなので、学生たちの積極性が際立った。昨日の授業では、学生+教師の37人による成果を「作品」としてまとめ、プレゼンテーションをした。


国家がAIを重点プロジェクトにし、メガ企業からベンチャーまでが膨大な資本を投じている。Eコマース、シェアリングバイク、ドローン、VR、自動翻訳など、若者たちの周りにはAI技術があふれている。ネットではAI記者が記事を配信し、大学の図書館には顔認証システムが導入されている。卒業作品の映画にも、協賛企業が制作したロボットが登場している。

期末課題の論文は、「君はAIに何を望むか?」をテーマとした。かつてないほど人間に近づいているAIと向き合うことは、実のところ人間自身と向き合うことにほかならない。人間も抽象的な存在ではなく、まず自分がある。自分という存在を掘り下げなければ、周囲の環境も正しく把握することはできない。その思索の中から、関心、陪伴、助手、恐懼、情感、生命、縁、記憶、など、人間とAIとの関係をとらえるさまざまなキーワードがみつかった。


今学期、様々な議論が生まれた実績を踏まえ、3月からスタートする春季学期には『人工知能時代のメディア』と題する科目を独立して開講すべく申請し、認められた。科目選択が始まったが、定員30のところへたちまち100人近くが集まった。近年にない人気だとのことだった。

国全体が一つの目標に向かって突き進んでいるようにみえる。だが、内実は複雑だ。個々人の心が抱えてる問題は、国の違いによって大きく変わるわけではない。共通の課題を人々が共有しないうちに、権力と利益の両輪が、科学と技術のアクセルを加速し続ける。こんな恐ろしいことはない。

ロボットが守るべきルールとしてしばしば、SFF作家アイザック・アシモフが掲げた3原則が取り上げられる。「人間に危害を加えない」「命令には服従する」「ロボット自身も守らなければならない」を内容とするロボット三原則だ。ますます人間に近づいているAIにも新たな原則があってよい。次の学期は「中国の学生が考えるAI原則」をテーマとすることに決めた。


中国の高度成長期、90年代に生まれた彼ら、彼女らがどんな原則を生み出すのか。日本で同じく高度成長期に育った老記者とのコラボレーションが、春節休み後に始まる。(完)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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