いままで知られていない“本気の日本人論”

尾藤 克之

技術力や、協調力、道徳心、丁寧なおもてなしなどで、世界から称賛されることの多い日本人。しかし、世界を舞台に偉大な足跡を残したにも関わらず、あまり知られていない日本人がいる。その裏には「黄禍論(Yellow Peril)」という考え方が存在した。

今回紹介するのは、『日本人だけが知らない世界から尊敬される日本人』(SBクリエイティブ)。著者は、米国人弁護士のケント・ギルバートさん。日本の歴史に精通し、日本在住40年の米国人弁護士が、満を持して光をあてる渾身の作品になる。

世界で評価された「カッターナイフ」

カッターナイフは世界中で一般的に使用されている。新聞雑誌などを切り抜いてスクラップブックを作成する際には大活躍である。この、カッターナイフ、1956年に岡田良男という日本人が考案したことはあまり知られていない。

「岡田は1931年、大阪で生まれました。実家は印刷紙を断裁する町工場でした。旧制中学を中退した岡田は、電気工事の見習い工になり、いくつかの職を転々として、印刷会社に就職しました。そこで紙を切るカミソリが不便で、すぐに使えなくなることに問題意識を持った岡田は、切れ味が悪くならないナイフの考案に乗り出します。」(ケントさん)

その後、日本にやってきた進駐軍が配っていたあるものを見て、カッターナイフを生み出すヒントを得る。それは一体なんだったのか。

「カッターナイフを生み出した着想の元は、なんと、板チョコとガラスの板だそうです。第二次世界大戦後、日本にやってきた進駐軍が配っていた板チョコは格子状になっていて、手で割りやすくなっている。また、ガラスを切る時、表面に傷をつけてポンと押すときれいに割れる。この二つが発想の元になったそうです。」(ケントさん)

「私がもう一つ魅力的だと感じるのは、『オルファ』という社名の妙です。最大の特長が『折る刃』ですから、『ハ』を『ファ』に変えた言語感覚は絶妙ですし、海外市場を見据えた視野の広さも感じさせます。世界で成功する企業の特徴として、企業名が『どこの国の言葉でもなく、海外受けしそうな響きである』点が挙げられます。」(同)

海外で成功するにはネーミングが重要

ケントさんによれば、海外で成功するにはネーミングは大きな意味を持つようだ。有名なものとしてSONYがある。SONYの前身は東京通信工業という社名。海外進出を意識した際、平易で、どこの国でも読めて違和感がないものを採用しようと考えていた。最初は、ラテン語の「SONUS(音)」をベースに検討がすすめられた。

次に、「SONUS(音)」から、「SONNY(坊や)」に移行し、「N」を削り「SONY」となる。「SON(損)」が入らないことや、多くの言語で発音しやすかったことが採用の理由となった。SONY以外にも、ネーミングにエピソードがある事例は少なくない。

「『鉄腕アトム』は直訳した名称にすると、英語では悪い意味を持つスラングになってしまうので、海外では『アストロボーイ』です。『ポケモン』も同様で、本来の『ポケットモンスター』と一言うと、別の意味を連想されてしまいます。日本以外の事例だと、自動車会社のフォードの、『ピント』という車のケースがあります。」(ケントさん)

「メキシコに輸出したら、スペイン語で『爆発』という意味だったのです。この車には重大な欠陥があって、燃料タンクを後ろに搭載していたので、追突されて実際に爆発する事件がいくつも起き、早々に販売中止となりました。」(同)

海外で使用してはいけないネーミング

たとえば、「カルピス」。アメリカでは「カルピコ」という名前で売られている。これは、発音が「カウピス(Cow-piss)」と聞こえることへの配慮と言われている。ロシアで「カバン」はブタを意味する発音だったり、先ほどの、「ポケットモンスター」や、「コック」「ラピュタ」などにも、別の意味がある。興味のある方は調べてもらいたい。

さて、本書には、今回紹介した、岡田良男のような、高い志をもって活躍した日本人が数多く紹介されている。人物紹介のみならず、関連するエピソードなども興味深い。いままで知られていない、新たな日本人と出会う機会になるかも知れない。

尾藤克之
コラムニスト