クロージングを台無しにする「悪魔のトーク」が存在する

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ビジネス心理学をご存知だろうか。よく知られているものに、アサーティブ、フレーミング、バーナム効果、コールドリーディングなどがある。心理学は「人問心理を解き明かすもの」だが、知っているだけでは役にたたない。大事な場面で、「使える」という実践的なレベルにまで高めておかないと、中途半端な知識で終わってしまう。

今回は『売れすぎて中毒になる営業の心理学』(すばる舎)を紹介したい。著者は、神岡真司さん、ビジネス心理学の専門家として知られている。ビジネス心理学に関する著書も多く、主要著書として30万部ベストセラー『ヤバい心理学』がある。

「ご決断!」を焦ってはいけない

営業活動に従事する人は、お客様へのニーズを発掘のための質問からスタートしなければいけない。満足や不満足、改善点などを丹念に聞いていく。そして、お客様のニーズを把握して、不満足を満足にする提案が具体的にイメージできる瞬間がやってくる。

お客様「ほぅ、御社のサービスでは、そんなことまでやってくれるの?」
営業A「もちろんです。当社では、当然のサービスとして認識しております!!」
お客様「ふーん、それはありがたいねえ。おたくがそこまでやってくれるとは」
営業A「いかがでしょう!サービス万全です、ご決断を!!!」
お客様「そうねえ、てか、おたくの営業拠点からうちは遠いけど、大丈夫なの?」
営業A「えぇ、もちろんです。ご心配はごもっともですが、お任せください!!」
お客様「できなかったら途中解約できるの??」
営業A「えっ?いや、あのー、てゆうか、2年ごとの契約ですから!」
お客様「契約してから、満足できない状態だったら困るじゃない。でしょ??」
営業A「うちは大丈夫ですから、信用してください!!」
お客様「では、検討しておきますね。必要になりましたらまた連絡しますねー」

一旦、お客様が、乗り気になったが商談は決裂する。その理由は、営業担当者がお客様の反応に慢心して無防備になったことにある。このケースでは信頼関係で構築できていない段階で、早々に契約を迫った点が好ましくなかった。「ご決断を!」は「決断を迫るトーク」として考えられているが、これは「悪魔のトーク」にも成りうるので注意が必要だ。

余裕と人徳を漂わせるトーク

あなたは、お客様が他社製品を使用していたらどのように対応するだろうか。ネガティブトークで誘導し、他社製品をこき下ろしたくなるが、それも「悪魔のトーク」になる。次に2つのトークの事例を紹介する。どのように感じるだろうか。

トークA
「安心商事さんの製品をお使いですか。安心できて素晴らしい製品ですね。すごく便利な機能がついていますよね。かなり評判みたいですよ」

トークB
「安心商事さんの製品をお使いですか。壊れやすいとか、使い勝手がイマイチとかの評判を聞きますよ。使い勝手はどうでしたか?良かったんですか??」

お客様がその製品を気に入っている場合、人格を損なうことになる。「トークB」は、まさにそれだ。では、「トークA」はどうか。「余裕と人徳を漂わせている」ように聞こえないだろうか。お客様がその製品を気に入っている場合、何とかその思いを断ち切りたくなるが、これはNG行為になる。自分を否定されていることと同じだからである。

なお、本書に取上げられたケースはリアリティがあることから、日常のビジネスにも転用可能である。楽しみながらビジネス心理学を理解できることだろう。

尾藤克之
コラムニスト